【今週の大人センテンス】伊集院静が新聞広告で新社会人に贈る激励のエール

人間関係

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第92回 若者の「まぶしい明日に乾杯。」

 

「新社会人おめでとう。今日、君はどんな職場に立っているのだろうか。どんな仕事であれ、そこが君の出発点だ。」by伊集院静

 

【センテンスの生い立ち】

サントリーが毎年、成人の日と新社会人の入社の日に、主要紙に掲載しているメッセージ広告。それぞれ新成人と新社会人に向けて、作家の伊集院静さんが熱いエールを贈りつつ、大人として大切なことを伝えている。この広告のシリーズがスタートしたのは1978年。作家の山口瞳さんが1995年まで担当し、脚本家の倉本聰さんを経て、2000年から伊集院さんにバトンタッチ。今年は、新社会人の多くが初出社する4月2日の朝刊に掲載された。

 

【3つの大人ポイント】

  • 不安でいっぱいの新社会人に勇気と希望を与えている
  • あらゆる世代の大人が我が身を振り返らざるを得ない
  • 広告の持つ可能性と企業としての責任を示している

 

新社会人のみなさま、おめでとうございます。2年目を迎えたみなさまも30年目ぐらいを迎えたみなさまも、新入生のみなさまも新しい学年になったみなさまも、それぞれの新しい門出を心からご祝福いたします。言うまでもありませんが、新しい門出にはいいことしか待っていません。不安や心配もあるかもしれませんが、先回りしてそのへんをふくらませても仕方ありません。とりあえず見て見ないフリをしておけば大丈夫です。

 

毎年、多くの新社会人が入社を迎える日になると、主要紙の朝刊に若者への熱いエールが掲載されます。サントリーが1978年から続けている恒例の新聞広告。メッセージの執筆は、最初が作家の山口瞳さん、次に脚本家の倉本聰さんを経て、2000年から作家の伊集院静さんに引き継がれました。成人の日にも、新成人に向けて同様の広告が掲載されています。毎回、含蓄たっぷり刺激たっぷりの内容で、楽しみにしている人も多いでしょう。

 

伊集院静さんは、今年の新社会人に向けて、「高く、広く、大きな夢を持て。」と題した一文を寄せました。抜粋してご紹介しましょう。

 

新社会人おめでとう。今日、君はどんな職場に立っているのだろうか。

どんな仕事であれ、そこが君の出発点だ。

君はいま、自分の将来の姿を想像できるかい? それはできやしない。誰だって皆そうだったんだ。君が、どんな学歴であれ、いかなる国の人であれ、今日の出発点では、皆が平等に立っていることを覚えておいてほしい。

(中略)

今、何かを獲得し、現役で汗を流している先輩たちは、百人が百通りのやり方で道を見つけ、歩いているんだ。

ただその人たちには、ひとつの共通点があるんだ。

それは日々見上げている山が、乗り出している海原が、他の人より

高く、広く、誰より大きい夢を抱いているということだ。

若いくせに大きなことを口にして……、そんな連中は放っておけばいい。

笑われてもいい。失敗してもいい。失敗の中にこそかがやくものはある。

(中略)

明治の時代、若き一人の男が言った。「やってみなはれ」そう、まずやってみよう。その瞬間、夢は夢でなく、君の道となるだろう。

(中略)

まぶしい明日に乾杯。

 

伊集院静

 

新社会人がそれぞれの出発点から、長い旅をスタートさせました。高く、広く、大きな夢を抱けば抱くほど、より高く、広く、大きな世界を切り開けるはず。今年もこの広告は、多くの新社会人に勇気と希望を与えたことでしょう。同時に、あらゆる世代の大人も、我が身を振り返らざるを得ません。ちなみに「やってみなはれ」と言った「若き一人の男」とは、サントリー創業者の鳥井信治郎氏のことです。

 

こんなまとめもありました⇒

 

私自身も、はるか昔の20代になりかけの頃、この広告のシリーズで山口瞳さんの言葉に感動し、身が引き締まった記憶があります。調べてみたら、1985年の成人の日、私が21歳のときに掲載された「君達は大金持ちだ!」と題された一文でした。

 

山口さんは、新成人の若者に向けて、君達にはたくさんの持時間、豊穣の歳月があると呼びかけます。「君達は威張っていい。自信を持ち給え。」「ただし、条件がある。志がなければ駄目だ。」とも。今になって振り返ってみると、せっかくのたくさんの持時間を有効に生かしたかどうかは疑問ですが……。いや、まだまだこれからですよね。

 

この広告がスタートしたのは、ちょうど40年前。スポンサーのサントリーとしては、新成人や新社会人に「大人っていいもんだ」と思ってもらうことで、間接的にお酒の魅力を伝えて、お酒に興味を持ってもらいたいんだろうとは思います。しかし、お酒を売りたい気持はいったん脇に置いて、長年にわたって若者をあたたかく応援し続けてきました。そんな粋な姿勢で企業の責任を示すことこそが、もっとも効果的な広告になっています。

 

昨今の世の中は、現状を嘆いたり将来に悲観的になったりすることが流行っています。「なんとかなる」と楽観的に構えていると、思慮の浅い残念な人と思われかねません。社会に出たばかりのみなさんは、どうかそんな風潮に惑わされないでください。無限の可能性を持っているみなさんには、夢や期待を存分に抱いてもらえたらと思います。

 

なかには嫌な大人もいますが、ほとんどの大人は若いみなさんの味方です。みなさんを応援することを通じて、自分自身を応援したいと思っています。みなさんは、新しい出会いや体験にどんどんワクワクして、たくさんの喜びを感じてください。元若者の私たちは、そのおすそわけをもらって、自分なりのワクワクや喜びを探したいと思います。みなさんのチャレンジが、すべての大人のチャレンジです。

 

新社会人のみなさんと(自分も含む)すべての大人のみなさんに幸多かれ。伊集院静さんの言葉に便乗して、まぶしい明日に乾杯。

 

 

【今週の大人の教訓】

こういう広告を見ると、やっぱり紙の新聞はいいなと思える

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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