永遠の「温泉地ライバル」、草津と別府が手を組んだ理由

ビジネス

山田祐子

 

相撲の番付に似せた「温泉番付」の常連で、古来より日本一への闘いを繰り広げてきた温泉地のライバルといえば草津と別府。実は自噴する湧出量では草津、総湧出量では別府に軍配があがるのだが、国内外の旅行客の多さも含め名実ともに東西の横綱であることに間違いない。

 

 

■元気があってこそのライバル

 

そんなライバル同士の草津と別府だが、今年1月に起きた白根山の噴火により草津が大量のキャンセルを受けたことに対し、別府市が出した「今は、草津行こうぜ。」という新聞広告が話題になった。「敵に塩を送る」という戦国の侍魂を現代に見せつけた別府へは「かっこいい!」「懐が大きい!」など称賛さされる声があがった。

 

そんな別府温泉も熊本地震直後、推定11万人(被害総額約14億円)の損失を受けたが、今年の3月には「」と称して全国から公募した施設や個人宅148カ所に別府の湯を運ぶ企画をおこなった。なかでも、姉妹都市であり、泊りに行き応援をしたという熱海市の駅前の足湯に副市長が自ら湯を注入する動画はインパクトがある。

 

これらプロモーション以外の現実的なところでも温泉街の連携体制は強い。熊本地震の後、佐賀県の旅館やホテルでは、多数の避難者を無料で受け入れている。災害が起こらないことに越したことはないのだが、今回の広告を通じて、災害時における温泉地や旅館業界の具体的なアクションにも注目してもらいたいと筆者は感じている。

 

 

■様々な施策で手を取り合う温泉街

 

次に、温泉街のなかでの連携という点に目を向けてみる。実は、一昔前の温泉街はどこに行っても仲が悪いと言われていた。旅館の主は隣の宿の部屋の灯りを数えては一喜一憂。館内にはラーメンコーナー、カラオケスナック、土産物屋をつくることで館の中でお金を落としてもらい、外には一歩も出すまいと必死だった。やがて団体旅行は減り国内旅行者数も右肩下がり。旅館はこの10年で半分に減った。

 

そんな苦境に立たされる温泉街において、巨額な負債の額や後継者が不在であることによって救済できないケースもあるが、生き残りをかけて手に手を取り合う温泉街や地域も増えてきた。そのキーワードは「外国人」と「若者」。

 

長野県山ノ内町にある渋温泉は浴衣と下駄が似合う風情ある石畳の温泉街。いまでは露天風呂に浸かる「スノーモンキー」を見に多くの外国人がやってくる。江戸時代から湯守りをしてきた宿主たちは苗字が同じなので「●●ちゃん」と名前で呼びあう。

 

そんな小さな温泉街にムーブメントが起きている。県内外の若者が続々とゲストハウスやビアバーやカフェを開業させているのだ。仕掛け人は温泉地を再生するために作られたまちづくり会社「」。建物のオーナーと取得や賃借などの不動産マネジメントを行った後、やる気のある若者に運営をさせている。

 

彼らのメインターゲットである外国人は、旅館の独特の慣習である「一泊二食」という制度はなじまない。したがって、夕食は外にどんどん出てもらう。そうすることで、1店で食材や調理人を抱えずに済むし、誰かが倒れても誰かが支えるという昔でいう互助組織が自然と成り立っている。外国人も浴衣と下駄姿で歩き回りご満悦だ。

 

渋温泉のように、旅館の内部にあった、温泉、食事、寝室という機能を街に点在させ「街全体の事業者が『共創」しながら観光客を受け入れる」という発想は、全国で広がりつつある。そのことは草津も別府も傾向は同じであり、若者が新しい温泉街を作ろうとしている。

 

建築やリノベーションのプロフェッショナル達が仕掛けるプロジェクトにも注目したい。その一つが、商店街や地域の事業者と連携しながら宿泊提供をしていく事業を「まちやど」と称し、現在6事業が加盟している「一般社団法人日本まちやど協会」だ。旅行者にとっても旅先を見つけることができる楽しいサイトとなっている。温泉地としては高知県高松市仏生山温泉にある「」が先駆けで、いまでは予約が取れない人気ぶりだ。

 

 

■魅力的なPRで日本の温泉を元気に

 

この本来のライバルたちが手を組む方式は益々進んでいくと思われる。温泉好きな人は温泉が好きだし、日本が好きな人は日本が好きだし、対立しているようにみえても共通の価値観をもつ人たちを囲い込んでいるに他ならないからだ。情報や移動手段を手に入れれば世界は狭くなると同時に商圏は広がっている。このことから、1つの宿や温泉地で囲い込まず、ゆるいアライアンスを組むことがリスクを分散させブランドを底上げすことにもつながるのと筆者は考えている。

 

最後に、別府市の広告は福岡圏を中心とする九州の人に向けて打っている。市民は誇りに思ったに違いない。観光は先ずは住民の賛同を得られなければ始まらない。この点でも、今回の「草津よし、別府市よし、新聞社よし」という三方良しは、まさに自治体PRの手本とも言えるだろう。

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株式会社井門観光研究所 代表取締役。株式会社ツーリズムワイズラボ 代表取締役。宇都 宮共和大学 非常勤講師。東京YMCA国際ホテル専門学校 非常勤講師。日本観光研究学会 会員。全国商工会連合会アドバイザー...

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