なぜ最近のF1は火花を散らして、白煙をあげるのか?

車・交通

 

F1世界選手権はモータースポーツであると同時にエンターテインメントでもある。テレビ放映権などの興行収入は一定の割合がチームに分配される仕組みであり、チームはそれを運営資金としてあてにしている。だから、レースを面白くする演出にも一定の理解を示しているのだろう。面白くなければお客さんは離れ、収入は減り、自分たちのビジネスも成立しなくなるからだ。いつの世も、バランスが問題になるけれど……。


当初は4種類だったドライタイヤの硬さの種類が7種類になったのも、レースの展開を面白くするためだ。それまで1800mmだった車幅が2017年に2000mmになったのは、F1マシンが格好良く見えるようにするためだ。「太い方が格好いい」などというのは思いっきり古い価値観なのだけれども、フロントタイヤは245mmから305mmになり、リヤは325mmから405mmになっている。古典的な価値観にあてはめて最新のF1を眺めれば、「迫力があって格好いい」ということになる。


2017年のワイドボディ化に合わせて、リヤウイングの翼端板は後傾させることが義務づけられた。横から眺めると、ウイングを支える左右両サイドの板は後ろに傾いているのが分かる。これは性能とは関係なく、スピード感の演出である。同様に、フロントウイングには後退角を付けることが義務づけられた。上から見ると、フロントウイングはΛ形に尖っている。これも性能よりもむしろ、スピード感の演出だ。

 

レース中の追い越しを演出するのもエンターテインメント性向上のため


レース中に追い越しがなければツマラナイ。だから、2011年にはDRSなる機能が導入されて追い越しの演出にひと役買っている。DRSとはDrag Reduction Systemの略でドラッグ削減システムの略だ。ドラッグとは空気抵抗のことで、空気抵抗を減らすシステムのことである。


DRSはリヤウイングに備わっている。レース中は計測区間(一般的にコースの2ヵ所に設けられている)で前走車とのタイム差が1秒以内に近づいているとき、定められたDRSゾーンで後ろを走っているクルマにDRSを使う権利が与えられる。DRSをオンにすると、前後に2枚並んだリヤウイングの後ろ側の板が動いて隙間が広くなる。


すると、リヤウイング全体が機能を失って空気抵抗が減り、最高速が伸びる仕組み。その伸びた最高速を利用すると、前走車を追い越しやすくなる。フリー走行や予選では使用のタイミングや回数に制限がないので、リヤウイングが発生するダウンフォースが必要なコーナー以外では、DRSをオンにして走るのが基本だ。

 

 

■火花と白煙、どちらも演出なのか?

 

2015年から火花が、2018年からは白煙が出るようになった


2015年には、車体底部へのチタンプレートの装着が義務づけられた。F1マシンは車体と路面の間隔をぎりぎりまで攻めて走る(その方が空力性能は高まる)が、そうすると姿勢の変化や路面の不整などの影響を受けて車体底面が路面とこすれることがある。底面にチタン製のプレートを取り付けておくと、路面とこすれた際に摩擦で派手に火花が飛ぶというわけだ。

 

ボディ底部のチタンプレートが路面に擦れて火花が散る


スペクタクルな演出である。火花は出したくないのに「出ちゃっている」のではなくて、「わざわざ出している」のである。F1は2014年にそれまでの高回転自然吸気エンジンからターボエンジンに切り替わり、音の迫力がなくなってしまった。音のスペクタクルを失った代わりに、光のスペクタクルでごまかそう……いやいや、楽しんでもらおうという仕掛けである。

 

音のスペクタクルの代わりに、光のスペクタクルを導入!?


 2018年には見た目的にもうひとつ変化が加わった。白煙だ。発進時などに、フェラーリ製パワーユニットを搭載しているチーム(フェラーリ、ハース、ザウバー)のマシン後端から白煙がもくもくと噴き出すのを目にすることが多い。これは煙幕作戦でも煙のスペクタクルでもなく、出てしまっている状況だ。


レギュレーションの変更が原因だが、演出ではない。この白煙はブローバイガスといって、燃焼室で燃え残ったガス(未燃ガス)である。エンジンは構造上どうしても、ピストンとシリンダー壁面の隙間を通って、未燃ガスがクランクケース(エンジンの最下部)に漏れてしまう。市販車が搭載するエンジンもそうだが、2017年までのF1エンジンは、クランクケースに漏れてしまった未燃ガスを回収し、吸気系統に還流させていた。大気汚染の原因になるからだ。


それを2018年のレギュレーションで禁止して、大気に開放するよう定めたのである。オイルバーニング(オイル燃焼)を防止するためだ。F1はレギュレーションで、レース中に使用できる燃料が105kgと決まっている。知恵を働かせたチームやパワーユニットコンストラクターは、エンジンオイルを意図的に燃焼させて出力や燃費の足しにしようと考え実行した。その際、ブローバイガスが吸気系に還流される仕組みを利用したのである。ブローバイガスに混入するオイルを燃やしてしまおうというわけだ。


レギュレーションの隙を突く(チーム側の立場に立ってみれば)クレバーなアイデアだったが、ルールを統括する側にとっては面白くなかった。というわけで、レギュレーションを変更してブローバイガスの還流を禁止し、大気に開放するよう定めたのである。その結果が、派手な白い煙だ。見た目は派手だけれども、御免こうむりたい。

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全...

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