私が「無料タクシー」に反対する理由

車・交通

今週話題になったモビリティ関連のニュースに「無料タクシー」があった。2019年3月から福岡市天神で、日本初の無料配車・運行サービスを始めるとのこと。利用者は専用のアプリを使って配車を予約し、車内のディスプレイにはお店や商品などの広告が流される。料金などの運行コストは広告のスポンサーが負担する仕組みだという。


運行を予定する新会社nommoc(ノモック)は、15歳で大型イベントの映像演出などを手がける会社を設立した吉田拓巳氏。開業資金は株式投資型クラウドファンディングサービスのFUNDINNO(ファンディーノ)を通じ、5000万円を調達するという。8日夜には募集にあたっての各種情報が開示され、12日から申し込みを受け付けるそうだ。


一見すると画期的なモビリティサービスで、インターネット上では「天才」などの書き込みも見られるが、広告を用いた無料移動サービスへの取り組みは初めてではない。当時のグーグルが米国で2011年に特許を申請し、3年後に受理されているからだ。


その内容は、スマートフォン上に表示されるレストランやショップなどのクーポン付広告に、目的地までの無料あるいは料金割引タクシー送迎サービスのメニューがあり、ボタンを押せばタクシーがやってきてレストランやショップまで運んでくれるというもの。


プロセスは今回の無料タクシーとは違っているけれど、広告料を原資にして料金を無料にする考え方は近い。


2014年と言えば、グーグルが卵型の超小型自動運転車を自社開発し、YouTubeにアップして話題を集めた年。この車両と上で紹介したサービスを結び付けて移動サービスを展開するつもりだったのかもしれない。


その後グーグルは自動運転部門をウェイモとして独立させ、自動車メーカーと提携し、車両の自社開発からは手を引いたが、自動運転の研究開発では他をリードしており、2017年からはアリゾナ州で無料の試乗サービス「アーリーライダープログラム」を展開している。


一方日本では、タクシーやハイヤー、バスを走らせる東京の日の丸リムジングループが、丸の内や日本橋などで無料巡回バスを走らせている。こちらは広告ではないものの、沿線の事業者から協賛を受けている。バスを巡回させることで街の賑わいが増せばお店に立ち寄る人が増えるだろうという考えだ。


地方にも無料輸送サービスはある。筆者が乗ったものでは石川県輪島市の電動カートがある。こちらは日本で初めて電動カートのナンバー取得を実現し、一部の道路に誘導線を埋め込むことで自動運転を導入するなど先進的な取り組みをしているが、運行コストは輪島商工会議所が負担している。これも日の丸自動車と同様、街の活性化が目的だろう。


つまり企業や団体から広告や支援を受けての無料移動サービスは画期的な事例ではないのだが、それを踏まえたうえで筆者は、公共交通の料金無料化には反対である。


移動はなによりも乗員の安全性が重要。この点は広告によって無料となっているテレビやラジオ、インターネットとは一線を画す。安全快適な移動には相応のコストが掛かる。移動者が適切な対価を払う意識を持つべきだろう。

 

無料ではないが大幅に安い料金を設定して人気を博した乗り物としては、かつてのツアーバスや観光バスがあった。しかし結局はドライバーの負担につながり、各地で重大事故を起こしたことは記憶している人も多いだろう。


FUNDINNOに公開された事業者・募集情報を見ると、ドライバー・車両関連費として1,620万円を投資するとある。当初10台の車両で運用するそうだから、ドライバーひとり+車両1台につき162万円にしかならない。


それに車内に広告を掲出することはタクシーをはじめ鉄道やバスなどあらゆる公共交通で行なっているが、それで運賃や料金をまかなえるという話は聞いたことがない。グーグル改めウェイモも、今年中にサービスを始める無人移動サービスでは料金を徴収するとしているようだ。


どうせ無料にするなら地方の高齢者や障がい者など、真に移動に困っている人たちの支援に向けてほしいという気持ちがあるが、15歳で起業したことをアピールする若い経営者に、そこまで思いを巡らせる社会経験はないようだ。

 

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モビリティジャーナリスト

森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担...

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