【今週の大人センテンス】謝罪会見をした日大選手が大人に教えてくれたこと

話題

写真:AP/アフロ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第98回 人間は弱くて、だけど強い

 

「そもそもの指示があったにしろ、やってしまったのは私です。人のせいにするのではなく、やってしまった事実がある以上、私が反省すべきことだと思っています」by悪質タックル問題で謝罪会見をした日大アメフト部の選手

 

【センテンスの生い立ち】

5月6日、関西学院大と日本大学が行なったアメリカンフットボールの定期戦で、悪質な反則行為によって関学大の選手が負傷。その後の日大の大人たちの対応には首をかしげる部分が多く、騒動がどんどん拡大している。22日、反則行為を行なった日大アメフト部の選手(20)が、謝罪と事実関係を説明するための会見を実施。誠実に頭を下げ、なぜ自分がそんなことをしてしまったかを真摯に語る姿は、見る人にさまざまなことを感じさせた。

 

【3つの大人ポイント】

  • 顔と名前を明らかにするという勇気ある行動に出た
  • あくまでも自分が悪かったという姿勢を貫き通した
  • 逃げ回る大人たちの卑劣さや醜さを浮き彫りにした

 

とても立派な会見でした。あれほど、見ていてつらい会見はなかなかありません。昨今はこういう件に触れる場合、「けっしてかばうつもりはないが」といった“枕詞”を付けるのがお約束です。それは、どうでもいい突っ込みを入れられたら面倒だから。しかし、そうやって私たちが反射的に予防線を張る癖がついていることと、肝心の“責任者”が苦しすぎる言い訳を繰り返していることとは、たぶんどこかで地続きです。だから、ここでは付けません。彼の会見は、とても立派でした。

 

ニュースで流された断片的な映像や、ましてネットの記事ではあまり伝わらないかもしれませんけど、彼が自分を守るために嘘をついているとはどうしても思えません。黙って隠れているという選択肢もあったわけですが、ああやって顔と名前を出してありのままを話しました。それによって、これから先どういうリスクがあるかわかりません。会見を開くことに対して、アメフト部の偉い人たちや大学側から、たぶんいろんな形の圧力や「説得」もあったでしょう。それでも彼は会見をして、相手に謝罪し、事の経緯を語りました。

 

それに引きかえ大人たちは……と思うと、暗澹たる気持ちになります。ただ、「内田前監督ケシカラン!」「日大の対応はクズすぎる!」と腹を立てるのは簡単ですけど、こうした「わかりやすい悪役」が登場したときに、言ってみれば傍観者に過ぎない私たちが怒りの感情を張り切ってぶつけるのは、お手軽な自己満足に過ぎません。腹は立ちますが、なるべく落ち着いて、何をどう批判するか、何をどう学ぶか、何をどう省みるかといったことを考えたいところ。世間の空気に振り回されて、感情を無駄遣いしている場合ではありません。

 

会見で彼は最初に、けがをさせた選手、その家族、関学アメフト部と関係者への謝罪の言葉を述べて、深々と頭を下げました。続いて「陳述書」を読み上げる形で経緯を説明。その後、記者からの質問に対しても自分の言葉でしっかりと答えます。記者の質問は、どうにか監督やコーチへの恨みの言葉を引き出そうとしている“誘導尋問”が目立ちましたが、彼は一貫して「監督、コーチに対してぼくがどうこう言うことではないのかなと思います」と答え続け、自分が悪いというスタンスはまったくブレませんでした。

 

彼の会見を受けて、関学アメフト部の鳥内秀晃監督は「行為そのものは許されることではないが、勇気を出して真実を語ってくれたことには敬意を表したい。立派な態度だった」と称えています。けがをした選手の父親も、指示をしたとされる監督やコーチへの激しい憤りを示しつつ「自分のしてしまったことを償い、再生していただきたい。勇気をもって真実を話してくれたことに感謝する」と“加害者”にエールを贈りました。

 

少しさかのぼって、5月17日に関学が最初に記者会見を開いた際も、関学アメフト部の小野宏ディレクターは、「どういう事情があったにせよ、生命に関わる悪質なプレーです。重篤な事故が起きる可能性もあり、その行為自体は許されるものではありません」と憤りつつ、「当該選手本人が、このことの真実を自分の口から話すのが、どこかで彼の人生のためにも必要だと私は思います」とタックルをした選手を思いやる言葉を発しています。

 

この方々は、大人としてのあるべき姿を見せ、大人のやるべきことを果たしています。日大選手の父親もしかり。すぐに弁護士を付け、相手方への謝罪を監督に止められても実行し、そして会見を開くなど、息子に責任を取らせるため、また息子を守るために極めて適切な行動を取っています。会見のときも自分はいっさい表に出ないで、息子を居並ぶマスコミやその向こうの世間の厳しい目の前に送り出しました。高い見識や判断力、そして深い愛と息子への信頼がないとできないことです。

 

ふたたび同じフレーズで恐縮ですが、それに引きかえ本当は全力で彼を守らなければならい立場の大人たちは……。会見を受けての日大の広報が文書で発表したコメントは、「誤解を招いたとすれば、言葉足らずであったと心苦しく思います」「××(原文では実名)選手と監督・コーチとのコミュニケーションが不足していたことにつきまして、反省いたしております」など、もはやわざとやっているのではないかと思えるくらい、多くの人の神経を逆なでする言い逃れ感満載の内容でした。

 

大学にとっては、彼が多くの人の心を揺さぶる会見をしてくれたことをきっかけに、今までの悪いイメージを一転させる絶好のチャンスでした。しかし、もったいないというか救いようがないというか。しかも、コメントに選手の名前は実名で書いているのに、指導者の側は「監督」「コーチ」としか書いていないところからも、いろんな気遣いや染みついた体質を感じずにはいられません(すでに彼の名前は公表されていますが、これ以上広める必要はないという考えから、この原稿では「選手」としています)。

 

今回の件では、大人としての「いい見本」と「悪い見本」を見せてもらったし、何が「いい謝罪」で何が「悪い謝罪」かも、たくさん教えてもらいました。残念ながら「悪い見本」に近いタイプの大人は、世の中にたくさんいます。あなたのまわりにもいるだろうし、胸に手を当てて考えると自分の中にもそういう部分があるかもしれません。「わかりやすい悪役」に憤って留飲を下げる行為は、自分を無条件に肯定できる効能があり、気づかないうちに自分を棚に上げてしまう危険性を伴います。くれぐれも気を付けましょう。

 

謝罪会見をした日大選手は、日大や日大アメフト部だけでなく、私たちすべての大人に自分を省みるきっかけを与えてくれました。なるべく大人の「いい見本」になれるように、せいいっぱいがんばりたいものです。24日には日大が関学に対して再回答を送る予定ですが、さてどう出るつもりなのか。日本でもっとも多い学生やOB・OGも、今はさぞ肩身が狭い思いをしているでしょう。「悪い見本」に学ばせてもらうのはそろそろけっこうですので、最後のチャンスを生かして「いい見本」を見せてもらいたいところです。

 

 

【今週の大人の教訓】

「偉い人」になればなるほど、無理な弁解が通ると思ってしまうらしい

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

石原壮一郎のプロフィール&記事一覧
ページトップ