「北海道新幹線」の喜んでばかりいられない現状

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2016年3月26日、北海道新幹線が開通した。終着駅は新函館北斗駅。函館市や北斗市にとっては、自治体からも地域活性化への大きな期待が寄せられる。また東北地方の都市も、東京と北海道が新幹線で繋がることにより自分たちにもメリットがあるのではないかと期待を寄せている。3月中旬、私が盛岡を訪れた際にも、すでに駅ナカなど多くの店舗で北海道フェアが開催されていた。

 

開通初日、メディアは華々しくニュースや記事で取り上げたものの、実際には「大成功」と手放しで喜べない状況が北海道新幹線にはある。第一号列車こそ、チケット発売と同時に即完売状況になったが、それ以降の予約率が極めて低いのである。

 

 

■予約が埋まらない理由

北海道新幹線が通る地域の期待とは裏腹に、開通日から9日目までの予約率は平均約25%程度。これは何を意味するのだろうか。簡単に言えば、熱心な鉄道ファンだけが北海道新幹線に関心を抱いたということだ。したがって、初日の第一号列車だけが即完売し、他の列車の予約率が極めて低くなってしまっているのだ。北海道新幹線の予約率が低迷している理由は、飛行機との比較による3点に集約できる。

 

まず、第一の理由は「価格」だ。札幌に行く場合は別として、函館に行く場合には、どちらが安いかはケースバイケースと言える。早割、キャンペーン価格、LCCを利用するかどうかで変わってくる。北海道新幹線にとって、必ずしも大きなアドバンテージにはなっていないのが現状だ。

 

第二の理由は「時間」だ。東京駅から函館まで北海道新幹線で行くよりも、飛行機で行く方が約1時間ほど早く到着する。

 

第三の理由は「到着場所」だ。北海道新幹線の終着駅は新函館北斗駅だ。北海道の中心である札幌が終着駅ではない。新幹線が北海道の中心である札幌まで延伸するのは2030年の予定だ。しかも、北海道第二の都市、函館駅へ行くにも、終着駅からさらに15分ほどかかる。

 

飛行機よりも、価格メリットは薄く、所要時間は長く、到着場所の利便性も低い。企業の経費節減方針や外国人観光客増加による宿泊施設の逼迫から、今や日帰り北海道出張もあるビジネスマンにとって、時間と場所のデメリットは大きい。また、プライベートで利用したい人たちにとっても価格が大きなデメリットとなっているのだ。

 

 

■JR北海道の課題

いまさらの話になるが、本当は、JR北海道がやるべきは、北海道新幹線ではなく、寝台列車のような「旅の時間そのものを楽しむ」戦略の強化であった。言い換えれば「交通手段=移動」からの発想の転換が必要だった。すでにJR九州は、移動自体をエンターテインメントにする努力を見せている。また、発想の転換という意味では、JR東日本などは駅ナカ事業に力を入れており、輸送だけにとどまらない幅広い展開を見せている。JR各社とも知恵を出し、工夫をしているのだ。

 

先に述べたように、JR九州は鉄道を、ただ人を運ぶだけの「交通手段」から、乗っていること自体に楽しみを付加した「エンターテインメント」へと昇華させた。その代表例が豪華寝台列車「ななつ星」である。日本にはお金と時間のある高齢者が増えていることを踏まえ、JR九州は数十万円以上という高価格の「ななつ星」をスタートさせ、大成功させている。九州と同じ以上に北海道には観光資源が豊富だが、JR北海道からはその魅力を最大化させる方策があまり聞こえてこない。

 

北海道新幹線の現状は「新幹線を開通させました。これから地域が活性するように頑張ろう!」という声に聞こえる。地域の活性化は大事ではあるが、JR北海道が来て欲しい観光客やビジネスマンの声は置き去りにされており、ニーズが反映されているとは言い難い。かつて高度経済成長の中、日本列島改造論を打ち出した田中角栄首相の時代であれば、それも良かっただろう。交通インフラを整備し、建物を建てれば、日本は成長していった。しかし、今は時代が違う。日本の人口減少化、地方の疲弊も進んでいる。かつてのように鉄道を引けば、高速道路を引けば、その地域が活性化していく時代ではないのだ。

 

 

■好調「北陸新幹線」と何が違うのか?

ここで2015年3月に開通した北陸新幹線との違いを確認したい。北陸新幹線が受け入れられたのは「時間」のデメリットの解消だ。飛行機の場合、飛行機で東京から小松空港を利用して金沢市街地へ行くよりも、新幹線で行くほうが便利である。また金沢自体、文化・歴史・食事等、観光都市としてのポテンシャルがもともと高い街である。アクセスのしにくさから、観光客が増えなかったが、新幹線が開通したことによって、もともとある魅力がさらに開花した形になったのだ。

 

北海道新幹線の場合、終着駅が新函館北斗駅という馴染みのない場所であることも影響し、主に観光客に対しての打ち出し方が曖昧になっているように感じる。特に観光客にとっては、そこに行けば、どんな楽しみ方ができるのかが重要である。このあたりが曖昧になっている。

 

 

■ 「北海道新幹線」の活路を開く方策

2030年に予定されている札幌までの延伸が実現すれば、乗車率は大きく向上するだろう。しかし、何もせず10年以上、現状を放置することもできない。いくつかの方策はあるが、現状では函館を売りにするのが最も現実的な乗車率改善策であろう。

 

函館は観光都市としてはポテンシャルが高い。古い町並み、美しい夜景、函館朝市に代表される美味しい海産物、五稜郭、はたまたラッキーピエロのような函館でしか味わえないB級グルメ。歴史・食事等、充分魅力あるものが多い。ただ北海道観光と一言でまとめてしまうと、どうしても札幌には負けてしまっていた。その点、北海道新幹線は、東京から函館駅にはダイレクトにはいかないものの、終着駅である新函館北斗駅から15分程度で到着することができる。函館観光ならば、羽田空港まで行き飛行機に乗って行くよりも、東京のど真ん中である東京駅から函館に行く方が便利で楽しいというPRをしていくべきだろう。

 

ただ、これだけではメリット付けがまだまだ弱い。これから地元を売り込んでいきたい地域は、まだ知られていない地元の食の魅力を、もっと積極的にアピールする必要がある。アピール方法は数多くの手法がある。例えば、新幹線にはワゴンサービスがある。ワゴンサービスは有料だが、ワゴンサービスの際に、乗客が好きなものを選んで、無料で頂けるサービスくらい踏み込んでも良い。一口二口食べられる形で良いのだ。いくつかの商品を揃えることで、選ぶ楽しみも増え、乗客満足度も上がる。また選択肢を用意することで、次回もまた乗車してみようという気持ちを少しでも向上させる効果も期待できる。場合によっては、新幹線が通過する北海道の地域だけでなく仙台、盛岡、青森などが、相乗りしても良いだろう。これらの都市も、北海道新幹線が開通したことで、より多くの人が来て欲しいと思っているからだ。

 

開通した後に、北海道新幹線の必要性や魅力をどう高めるかを考えるというのは、率直に言えば本末転倒だ。しかし、開通した以上、無策で赤字やジリ貧の状況を続けるのは経営としてありえない。北海道新幹線にとって、時間、価格、到着場所を変えられないならば、別の形で乗客にメリット付けを考えるなど早急に活路を見出す方法を講じるべきだ。JR北海道だけでなく、地方自治体、観光協会、旅行会社などとも協力し、包括的な策も必要だ。お祝いは終わった。JR北海道にとって、これからを考えることこそ重要である。

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マーケティングコンサルタント

新井 庸志

マーケティングコンサルタント。「ワールドビジネスサテライト」「スーパーJチャンネル」などのニュース、情報番組や「日本経済新聞」「日経ビジネス」「財界」「宣伝会議」など、新聞、雑誌での執筆多数。経営から...

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