【中年名車図鑑|初代 トヨタ・エスティマ】世界に類を見ない斬新で未来的なミニバン

車・交通

大貫直次郎

北米市場で巻き起こった“ミニバン”ブームに対し、トヨタ自動車はプラットフォームからパワートレイン、内外装デザインに至るまですべてを新しくした次世代ミニバンを企画し、1989年開催の東京モーターショーで参考出品車として披露する。そして、翌年に市販モデルのアメリカでのリリースを開始し、やや遅れて日本での販売をスタートさせた――。今回は“新世代マルチサルーン”のキャッチを掲げて1990年に登場した新世代の国産ミニバン、「エスティマ」の話題で一席。

 


【Vol.71 初代 トヨタ・エスティマ】

1980年代後半の北米市場では、クルマの新しいムーブメントが出現していた。多人数が乗車できて、シートをたためば大容量の荷物が積載できる多機能なクルマ――いわゆる“ミニバン”の流行である。クライスラー・グループのダッジ・キャラバン/プリマス・ボイジャーを火付け役に、GMやフォードなども多様なミニバンをリリースしていた。この状況に目をつけ、北米だけではなく日本市場でもミニバンを展開しようと画策したのが、市場の動向を最重要視するトヨタ自動車だった。同社の開発陣は80年代中盤からオリジナルミニバンの企画を立ち上げ、北米市場のモデルのほか、欧州のルノー・エスパスなどを研究しながら開発を進めていった。

 

北米でのミニバンブームを受けて開発、日本でも発売すべく企画された次世代ミニバン。レイアウトもさることながら、丸みを帯びたデザインはエスティマの大きな特徴となった


■平床化のためにエンジンを横に75度寝かせる

 


従来の1BOXバンのワゴン化ではなく、ミニバン専用のシャシーを新設計するにあたり、開発陣は「可能な限り広くて使いやすい居住空間を構築する」さらに「乗用車と同レベルの走る楽しさを確保する」ことを目標に掲げる。これらを成し遂げるために編み出した手法は、床下に、しかもセカンドシート下部付近にエンジンをレイアウトするアンダーフロア型ミッドシップの車両レイアウトだった。さらにエンジン自体も横に75度寝かせて配置し、室内の平床化を実現した。


世界に類を見ないミニバンレイアウトの斬新さは、内外装でも表現された。アメリカのデザインスタジオであるCALTYが主導した基本スタイルは、ボンネットからAピラー、そしてルーフラインにかけてなだらかな弧を描き、さらにフロントマスクやサイドパネルにも丸みを持たせる。内装は鳥が羽根を広げたようなインパネデザインに連続性を持たせたドアトリムを構築して、未来的な造形と優しい包まれ感を創出した。全身で新世代ミニバンのオリジナリティを表現する――そんな開発陣の意気込みが、開発過程で随所に発揮されたのである。

 

広くて使いやすい居住空間、乗用車レベルの走りの楽しさを実現するため、シート下部にエンジンを75度寝かせて配置

 

■ミニバンではなく“新世代マルチサルーン”


トヨタの新世代ミニバンは、1989年に開催された第28回東京モーターショーで初陣を飾る。「プレビア」の名で参考出品されたミニバンは、その斬新なレイアウトを観客に披露するために、動くカットモデルまでも用意された。


1990年に入ると、まずアメリカ市場でミニバンの販売を開始する。同年5月には、「エスティマ」の車名で日本でのリリースも始まった。ちなみに、エスティマ(ESTIMA)の車名は英語で「尊敬すべき」を意味するESTIMABLEに由来。また、キャッチフレーズは当時の日本でまだミニバンの呼称が浸透していなかったことから、“新世代マルチサルーン”を謳っていた。

 

コクピットデザインも個性的だった。インパネからドアトリムへとつながるラインはあたかも鳥が羽を広げたような、伸びやかなデザイン


デビュー当初のエスティマは、2列目に独立式シートを装着した7人乗りだけをラインアップする。搭載エンジンは2TZ-FE型2438cc直列4気筒DOHC16Vユニットで、パワー&トルクは135ps/21.0kg・mを発生。トランスミッションにはウォークスルー性を重視してコラム式の電子制御式4速ATを組み合わせる。駆動方式はMRとなる2WD(車両型式はTCR11W)とビスカスカップリング付きフルタイム4WD(同TCR21W)が選択できた。ボディサイズは全長4750×全幅1800×全高1780~1790mm/ホイールベース2860mmの3ナンバー規格。サスペンションは前マクファーソンストラット/後ダブルウィッシュボーンの4輪独立懸架で仕立てる。また、2分割式サンルーフの“ツインムーンルーフ”やオーバーヘッドデュアルオートエアコン、CDプレーヤー付9スピーカー・5アンプの“エスティマ・ライブサウンドシステム”といった装備アイテムも話題を呼んだ。

 


■5ナンバーサイズのルシーダ/エミーナ投入


斬新なコンセプトで登場した新世代ミニバンのエスティマ。しかし、販売成績はデビュー当初を除いて予想外に伸び悩んだ。当時は一般ユーザーの注目が高性能なスポーツカーやステーションワゴン、クロカン4WDに集中しており、ミニバンの利便性はあまり理解されなかったのだ。また、日本市場では大柄なボディが、北米市場では2.4Lエンジンの非力さがウィークポイントとして指摘された。


開発陣は早速、エスティマのテコ入れ策を実施する。1992年1月には日本向けに5ナンバーのボディサイズ(全長を60mm、全幅を110mm短縮)とした「エスティマ・ルシーダ/エミーナ」を発売。1993年2月になると、ユーザーからの要望が多かった8人乗り(セカンドシートはベンチ式)のXグレードを追加する。同時にXグレードはリアサスを4リンク化するなど機能装備の一部を簡略化し、車両価格を安めに設定した。1994年8月にはスーパーチャージャー付エンジン(2TZ-FZE型。160ps)搭載車をラインアップ。1996年8月になると安全装備の拡充とグレード体系の見直しを図る。そして、1998年1月にはマイナーチェンジを敢行。スタイリングの変更や新グレードのアエラスの設定などで魅力度を高め、また新キャッチフレーズに“TOYOTAの天才タマゴ”と掲げた。

 

 

アンダーフロア型ミッドシップという凝ったメカニズムを採用したエスティマは、2000年1月にフルモデルチェンジを実施し、カムリ用のFFシャシーをベースとした第2世代に移行する。しかし、FFになっても先進ミニバンの地位は崩さず、ハイブリッドシステムの搭載など新機構を積極的に導入した。初代モデルのコンセプトから始まったトヨタ自動車の「先進ミニバン=エスティマ」の図式は、以後も着実に継承されていったのである。

 

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大貫直次郎

1966年型。自動車専門誌や一般誌などの編集記者を経て、クルマ関連を中心としたフリーランスのエディトリアル・ライターに。愛車はポルシェ911カレラ(930)やスバル・サンバー(TT2)のほか、レストア待ちの不動バ...

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