期間限定「時差Biz」は意味がない!? 「満員電車ゼロ」が実現しない本当の理由は…

車・交通

 

東京都が通勤ラッシュ緩和のために、通勤時間をずらすなどして働き方改革を奨励するキャンペーン「時差Biz」を、昨年に続いて7月10日から8月10日まで開催している。協力企業はこの原稿を書いている時点で783社と、昨年の2倍以上に増えたそうだ。

 

昨年度から積極的に協力している東京急行電鉄では、1日約1500人が利用して混雑緩和や所要時間短縮に貢献した臨時列車「時差Bizライナー」を、今年度は田園都市線に加えて東横線でも運行。6時台に発車する臨時列車の運転を7月9日~から20日までの平日9日間に行っている。

 

東京都では昨年度に続き、時差Biz推進賞なるものも用意している。ラッシュ時に集中している鉄道利用者の分散に寄与する取り組みを実施する企業や団体に賞を贈ることで、混雑緩和への社会的気運を盛り上げようとするものだ。

 

昨年度の時差Biz推進賞ワークスタイル部門で、最高レベルにあたる松本零士特別賞を受賞した損害保険ジャパン日本興亜では、全社員対象のテレワーク(在宅勤務)、9パターンから選べるシフトワーク(時差通勤)を用意するなどした結果、前年比で7・8月のシフトワーク実施者数は約17%増加する一方、7月の全社の労働時間は約11%減少したという。

 

 

■早起きして早い電車に乗る人ばかり…

 

小池百合子東京都知事が、2年前の都知事選挙の際に満員電車ゼロを公約に掲げ当選したことを覚えている人も多いだろう。当時は都知事のブレーンと言われるコンサルタントの入れ知恵で、電車だけでなくホームもすべて2階建てにすることで混雑が緩和できるという奇想天外なプランを提案した。

 

さすがにこれは実現不可能という声が都民からも多数寄せられ、まもなく都知事のみならず言い出したコンサルタントまで封印してしまったが、満員電車ゼロを公約に掲げたことは多くの都民が記憶している。より現実的な対策として、自身が環境大臣時代に提案して広く受け入れられたクールビズにちなんで時差Bizを提案したのだろう。

 

ネーミングのセンスには感心するが、内容は昔から各方面で叫ばれてきた時差通勤と大差はない。しかもウェブサイトを見ると、毎朝早起きして早い電車に乗って通勤するというストーリーが多数派で、逆はあまり見受けない。インターネットの書き込みでは、出社時間を早めたものの退社時間は以前と同じで、単純に勤労時間が増えたという不満も見られる。

 

ジャケットやネクタイを着用しないことでエアコンの温度を高めに設定するというクールビズが、個々の労働者の負担を減らしつつ環境対策につなげたのに対し、時差Bizは労働者の負担によって成り立っているのではないかという大きな違いを感じる。

 

もうひとつの問題はやはり、首都圏に会社が集まりすぎていることではないかと思っている。日本の大企業の多くは東京に本社を置く。先進国では世界的に見ても異例なことだという。たしかに米国ではシリコンバレー、中国では上海、ドイツではフランクフルトなど、首都以外に本拠を構える企業は多い。

 

もっとも東京都は、地方創生という観点から国が提示する23区内の大学定員抑制に反対しているぐらいであり、企業の地方移転には反対の立場ではないかと思われる。首都圏の鉄道事業者は、地方移転や在宅勤務が進めば純粋に運賃収入が減るので、やはり進んで口に出さないだろう。

 

時差Bizのような取り組みは年間を通して行わなければ意味がない。そうしないのは上記のような問題があるからではないかと思っている。でも東京都は満員電車ゼロという公約を掲げている。両者の要望を満足させるための、絶妙なる落とし所という感じがしなくもない。

 

今年の時差Bizでは2年後の東京五輪パラリンピック対策というメッセージが目立っている。これも期間限定であることを納得してもらうための理由ではないかと思えてしまう。

 

キャンペーンが終わったらいつもの通勤ラッシュに戻ってしまうのでは意味がない。市場移転問題での失敗を挽回するためにも、東京都にはこの分野での抜本的な解決を求めたい。

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モビリティジャーナリスト

森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担...

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