フェイクニュースやヘイトはどのようにして生まれ、広がるのか?

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ダ・ヴィンチニュース

『フェイクと憎悪:歪むメディアと民主主義』(永田浩三/大月書店)

 

2018年3月、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は、MXテレビで放送されていた『ニュース女子』という番組において、在日コリアン女性の辛淑玉さんの名誉を棄損する人権侵害があったことを認めた。そのうえで「再発防止に努力するよう勧告した」と発表した。


同番組は2017年1月、沖縄県内の米軍ヘリコプター離着陸帯建設に反対する人たちを「テロリストみたい」などとレポート形式で評し、辛さんを「黒幕」と名指しする内容の番組を放送。辛さんはこれらに対して、BPOに申し立てをしていた。


内容は事実と異なるにもかかわらず放送・報道されてしまう。このようないわゆる「フェイクニュース」の犠牲者は、辛さんに限らない。ではなぜ、メディアはフェイクを伝えてしまうのか。その疑問解決の一端になりそうなのが、武蔵大学教授で元NHKプロデューサーの永田浩三さんがまとめた(大月書店)だ。


同書には精神科医の香山リカさんや調査報道NPO「ニュースのタネ」編集長の立岩洋一郎さん、またBuzzFeed Japan創刊編集長の古田大輔さんやLITERA編集者の川端幹人さんなど、ネットメディアに関わる人も含め12人が寄稿・協力している。よってテーマはトランプのアメリカから沖縄の基地反対運動を巡る報道、いわゆる『ヘイト本』から『ニュース女子』に繋がる『そこまで言って委員会』(読売テレビ)のスタッフについてなど、各人見事にバラバラだ。だがフェイクと憎悪(ヘイト)の種がどう萌芽し、どうメディアを通じて広がっていくかというテーマは共通している。逆に言えばメディアにおけるフェイクとヘイトは、それだけ多ジャンルで広がり続けているのだろう。


しかしフェイクニュースやヘイト(時にはその両方)が流れるきっかけは、些細なものに過ぎなかったり、明確な悪意があるというより「金目当て」でしかなかったりすることもある。


たとえば古田大輔さんが追った、2017年に突如として現れた「大韓民国民間報道」なるサイト(現在は閉鎖)には、「2000年に日本人女児を強姦して起訴された韓国人に、ソウル市裁判所から無罪が言い渡された」という記事が掲載されていた。無罪の理由は「被害者が日本に帰国したため罪を無理に罰する必要もなく、無罪が妥当」とのことだったが、これは真っ赤なデマニュースだった。罪を犯したのに、被害者が外国人で帰国したからといって無罪になるのであれば、司法は何のために存在しているのかそもそも分からない。しかしこの記事は「韓国の判決は許せない」という人たちにより、2万件以上もシェアされたそうだ。

古田さんによるとサイト運営者の25歳無職男性はすべてがでまかせであることを認め、韓国にも政治にも興味はないが、小遣い稼ぎでサイトを始めたと語ったそうだ。しかしこのニュースはデマでありながらも、2018年6月下旬時点でも検索すると20万件以上ヒットする。もちろんフェイクニュースであることに触れたものも多いが、「サイトの出自は怪しいけど、韓国への渡航は禁止すべき」といったコメントも、未だに残されたままになっている。


一度流れた耳目を集めるセンセーショナルなニュースは、たとえその後「デマでした」と訂正しても、拡散したものは取り戻せない。先に触れた辛さんはバッシングに晒され続けた挙句、日本国外での生活を余儀なくされてしまった。バッシングは、BPOの勧告が発表された今も続いている。


ではメディアのフェイクやヘイトを駆逐するには、まず送り手側には何が必要なのか。永田浩三さんと東京新聞記者の望月衣塑子さんは同書の中で、

 

ジャーナリズムの原義はフランス語の「jour」、その日その日という意味ですが、歴史とは毎日の積み重ねで作られていくもので、ジャーナリスト自身も日々の行動で歴史を刻んでいく存在です。
古い言い方で言えば「お天道様が見ている」。そんな意識がどこかで必要なんだと思います。(永田)

世の中の人がメディアに求めるものって、公正さとか正義とか、真実を解き明かすこととか。ネットがこれだけ影響力を持つなかでも、取材して報道するマスメディアに期待されているものって、そういう素朴な価値だと思うんです。
何が正義で何が公正というのは人それぞれの見方があって、単純に白黒を決めつけることはできませんが、そういう中でも自分の問題意識に正直に問い続けて、取材した事実を書き続ける。そうしていれば、どこかでその記事を見て共感してくれる人もいる、それぞれの記者が自分の良心に基づいて報道を続けているなかで、少しずつ世の中はましなものになってくるし、メディアがそんなに変な方向に行くこともないんじゃないかな(望月)


と、記者には「良心」が必要なのだということを語っている。


今や記者は選ばれた一部の人がなれるものではない。ネット上では誰でもカメラがあれば、PCやスマホがあれば記事を書いて映像を発信することができる。だからこそ送り手側はどんな媒体であれ「金儲けができるから」「話題になるから」ではなく、自分の良心と問題意識に向き合うことが大事なのだと、2人の対談を通して知ることができる。


それぞれの寄稿者が自身の得意な切り口でフェイクとヘイトについてまとめているので、たとえばアメリカに興味がなくても、ヘイト本に関心がなくても誰もが自分の興味の持てる章を見つけることができるだろう。そこからメディアに溢れるフェイクとヘイトの現状について知り、考えるきっかけに繋げてほしい。


文=碓氷 連太郎

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