災害とスポーツ──3連戦を中止した広島カープの英断と高校野球

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西日本豪雨におけるプロ野球の対応などを踏まえ、災害とスポーツについて、雑誌「ナンバー」の創刊にも携わった元・文藝春秋の勝尾聡が、独自の視点から語る。

 

広島東洋カープは西日本豪雨を受け、対阪神3連戦を早々に中止すると決定した。写真はチーム本拠地のMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(Photo by Kyodo News via Getty Images)。

■豪雨に伴うそれぞれの延期事情

 

西日本を襲った集中豪雨の目を覆いたくなるような被害、酷暑のなかでの被災地住民の復旧への取組み、各地から集まっている多くのボランティアの奮闘ぶり……。

 

毎日こんなニュースを眼にし、耳にするたび、ロシア、ロンドン、そして国内でも熱戦が繰り広げられるサッカー、テニス、野球などのスポーツシーンに一喜一憂していることに申し訳ないような気分になったのは私だけだろうか。

 

本当に深刻な自然災害、事故、事件が起きているとき、スポーツに何が出来るのか? スポーツをしている場合なのか? 「スポーツなんて」と卑下するわけではないが、無力感に陥ってしまうことも多いのではないか。

 

自然災害ではないが、同じ頃にタイで起こったコーチと少年たち計13人が洞窟に閉じ込められた事故。その救出にはタイ国内はもとより世界各国から自発的に知恵と人材が集まり、全員無事救出という奇跡となったが、この救出劇さなかにもFIFAは少年たちを決勝戦に招待したいというメッセージを出していた。日本は歴史的にもタイとの繋がりが深いだけに、救出劇に積極的にかかわったように見えなかったのが残念だと感じた人も多かったはずだ。

 

そんな時、プロ野球のオールスター戦を控えたペナントレース前半戦。広島カープが主催の対阪神3連戦を早々に中止すると決定したことは、大いに評価してもいいのではないか。広島カープは12球団の中でもいちばん地域に密着した球団だ。かつてのホーム球場は広島市民球場で、まさに市民に密着していたし、スポンサーも多くが地元企業、戦力補強でも地元出身者を大切にしてきた。当然、地元ファンから熱烈な応援を受けている。そんなこともあってのことだろう。中国地方を中心に被害が予想される時点で、早々に中止を決定したようだ。

 

通常なら試合が開催されるかどうかは、当日の直前まで決定されないことが多い。すでに前売りチケットは販売されているし、開催に備えて売店、食堂はもちろん、多くの関係者がスタンバイしているのだ。3連戦全てを中止すると年間のスケジュールにも大きな影響が出てくるのは間違いない。

 

気象予想の精度が高くなり、特に今回の集中豪雨は長期間続いて、被害が出ることも予想されたとはいえ、これほどのことまで予想していたわけではないだろう。折角の主催試合なのだから、安心して試合を楽しんでもらいたいという球団関係者の思いが強かったのだろう。

 

J1リーグのサンフレッチェ広島は、7月18日の試合後、メンバー自ら街頭に立ち募金活動をおこなった (Photo by The Asahi Shimbun via Getty Images)。

集中豪雨で浸水した地域の映像を見ながら、私はこんな心配をしていた。プロ野球なら日程を変更することも出来るが、高校野球の県予選はどうなるのだろうか? 今回の集中豪雨の被害を受けた地域は広島、愛媛、岡山……その他の県も古くから高校野球が盛んな県ばかりだ。

 

今夏は100回記念大会ということで、朝日新聞では継続的に特集記事を掲載している。現役の高校生にとっても100回大会という節目に挑戦していることは意義深いことだろう。被災した球児、その関係者はいないのか? 予選を開く球場は大丈夫なのか? 大会運営はスムーズに行くのだろうか? 何より被災地域の球児たちは予選に出る気になるのだろうか?

 

気がかりなことばかりだったが、延期されていた広島県の県予選がようやく7月17日に開幕した。全国で1番遅い予選開幕となったようだが、これまでの関係者、選手たちの悩み、葛藤は想像を超えるものだったろう。朝日新聞に選手宣誓(全文)が掲載されていた。被災前に書いたものを、今回あらためて書き直し、今の思いを伝えたものだという。選手たちの予選に臨む熱い思いが伝わってきた。

 

今日も被災地域では、被災を乗り越えた高校球児たちの戦いが繰り広げられている。

 

文=勝尾 聡


PROFILE
勝尾 聡
かつお さとし・昭和29年大阪府生まれ。東京大学入学。4年間、運動会ボート部で過ごす。文学部国史学科卒。卒業後、㈱文藝春秋に入社。「ナンバー」創刊に携わる。「オール讀物」編集長、社長室長、監査役などを経て、現在は(公社)日本ボート協会・参与など。

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