なぜ我々は「ブランド信仰」をやめたのか?

ビジネス

 

ブランド信仰という言葉を聞かなくなって久しい。それは、お金がないとかそういうことではなくて、多分、情報が行き届くようになったということなのだと思う。

 


■消えゆく「ブランド信仰」


何故、有名ブランドの製品に人気があったのかというと、それは製品への信頼があるからだ。だから、どれを選んでも、それほど差が感じられないような場合、有名ブランドの製品であれば、少なくともハズレを掴む事はない。価格が多少高くても、それは品質への信用の証になる。


機能に差がなければ品質でグレードが決まる。ならば、信用が在るブランドのものを買っておけば間違いない、という考え方は理屈が通っている。エルメスが時代を超えて人気なのは、革製品メーカーとしての信用と製品の品質が見合っているからだし、その信用が続けば、お客さんも離れない。


ただ、現在、情報はインターネットなどによって隅々まで行き渡り、例えばバッグを買うにしても、かなり細かいところまで製品を比べる事ができるようになってきた。また、メーカーサイドも、製品それぞれに個性がある事を広く伝えられるようになった。海外製品を海外から個人が直接買うのも簡単になった。


そうなると、ブランドの信用に頼ることなく、自分が好きなもの、自分が必要とするものを選ぶ事ができるようになる。有名ブランドの製品も、国産の小さなデザイン事務所が作った製品も、同列に並べて選べるようになったわけで、その上で、「ここは有名ブランドのものを選ぼう」という時もあれば、「ここは、この小さなメーカーのものが好きだ」という時もある。


ブランドそのものの質が下がったのではなく、ブランド品もまた選択肢の一つになったということだ。だから「ブランド信仰」というような、揶揄が入った言葉は消えていく。

 


■老舗楽器メーカー ギブソンの倒産


ただ、ギブソンの倒産は、そういう問題でもないような気がする。ギブソン、フェンダーと言えば、私たちが高校の頃は、それはもう憧れのブランドで、当時はまだ、ギブソンやフェンダーのギターは、国産のギターに比べて良くできている個体が多かったと思う。


何せ、1970年代の終わりから80年代の始めといった時代である。その頃、数年前に発売された中古のギターであれば、フェンダーのものだって、多少無理すれば購入できたのだ。そのまま、今も使っていれば1974年とかの立派なビンテージである。相当な高値にだってなっているし、良い音も出す。そんなギターを持っていれば、現在の新品のギターを買う気には中々なれない。買うなら中古の掘り出し物を狙うだろう。


最近のギブソンのギターは、作りがイマイチだという噂も流れていたし、オートチューナーのようなキワモノ機能を搭載して大失敗したりもした。ただでさえ、パソコンなら安価に音楽が作れる時代に、ギターを弾く人は減っているというのに、それに対して事業の方向を転換したり他業種のメーカーを買収したりという方策では、ギターの人気は下がるばかりなのだ。


さらに、国産のギターは、元々、その工作精度の高さやコストパフォーマンスの高さで人気があったわけで、今更、ギブソンやフェンダーという名前に憧れがあるわけでもない若い人たちは、買いやすくて弾きやすい国産のギターや、韓国製、中国製などの安価なギターに流れる。結局、良い木を使っているという点が、ギブソンの最大の魅力で、しかも、かつては日本には中々良い木が入ってこなかったという部分でギブソンは優位に立っていた。しかし良い木を使ったモデルはやたらと高級品になってしまい、そこそこの価格のものでは、木に対するアドバンテージがなくなっていたという事も、ギブソンの低迷に繋がったのではないかと思う。

 


■ブランドイメージ回復は相当難しい


何と言っても、楽器、特にギターは、楽器店で気軽に試し弾きができるのだ。だから、どのメーカーも横一線で比較されてしまう。工芸品的な意味合いもあるギターのような木工製品は、手に持ってみれば工作精度などはすぐに分かる。楽器メーカーがブランドとしての信頼を保つのは、そうそう簡単なことではないのだ。しかも、それが、吹奏楽などには使われないギターだったりすれば、市場は元々、あまり大きくない。


最近、友人が1960年代のギブソンのアコースティックギターを買ったので、弾かせてもらうと、これが本当に良い音がするのだ。私のような、下手糞のギター弾きでさえ、すぐに分かるくらい良い音で鳴る。しかも弾きやすい。しかし、こういうギターには、新品の楽器が並ぶ店に行っても巡り合えない。中古楽器店での出会いを待つしかない。多分、今、良いギターというのは、そういう市場になっているのだと思う。


そういう時代に、もはや海外も日本もない。ブランドが、ブランドイメージを支えるだけの信頼を失うと、それを取り戻すのは、相当難しいのだ。などと考えつつ、中古ギターをせっせと試し弾きして掘り出し物がないかなー、と考える私なのだった。

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納富廉邦

フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな...

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