尾崎豊の歌詞を深く分析したら…「I LOVE YOU」ではなぜ「悲しい歌」を聞きたくないの?

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『盗んだバイクと壊れたガラス 尾崎豊の歌詞論』(見崎 鉄:著/アルファベータブックス)

シンガーソングライター・尾崎豊が亡くなったのは1992年。その後、尾崎豊に影響を受けたミュージシャンは次々に登場してきた。そして、尾崎自身の曲も何度となくカバーされ、聴き継がれてきた。しかし、尾崎豊のようなミュージシャンはいまだ出てきていない。それだけ尾崎は孤高の存在だったといえるだろう。

 

尾崎を他のミュージシャンと決定的に分けた要因は「言葉の素晴らしさ」にあったのではないか。それにもかかわらず、尾崎について評論家が語るとき、そのドラマティックな人生に注目するがあまり、純粋な音楽性についてはおろそかになりがちだった。は、尾崎の代表曲の歌詞にフォーカスしながら、音楽としての魅力を再考していく内容となっている。

 

本書で主に分析されているのは「15の夜」「卒業」「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」「十七歳の地図」「僕が僕であるために」の6曲だ。ファンでなくても、「どれも知らない」という人は少数ではないだろうか。いずれ劣らぬ名曲ばかり、といっていい。

 

しかし、有名曲ゆえの不当なバッシングも尾崎には寄せられる。たとえば、「15の夜」や「卒業」はたびたび、歌詞の内容が批判にさらされた。本書のタイトルにも引用された「盗んだバイクで走り出す」や「夜の校舎 窓ガラスこわしてまわった」などのフレーズが犯罪行為にあたると、一部リスナーの反感を買ったのだ。また、「校舎の裏 煙草をふかして」といった未成年の喫煙描写も受け入れられない人はいるだろう。

 

そこで、著者は部分だけを取り出して論じるのではなく、虚構と現実を切り離して歌詞を聴き込むべきだと提案する。著者の導きで冷静に「15の夜」や「卒業」の言葉を反すうしていくとき、浮かび上がるのは細部の豊かさだ。

 

「外を見てる俺」ではなく「外ばかり見てる俺」、「扉開きたい」ではなく「扉破りたい」と、微妙な言い回しが曲の主人公の焦燥感を的確に伝えているのだ。また、「卒業」では「~た」という完了形の語尾が続き、「~なのか」という疑問系へと変わり、「~だろう」系を経て「卒業」と体言止めで終わる。作詞家として、かなり意図的な法則性が見てとれる

 

歌詞を1行ずつ抜き出し、分析していく著者の文章はとても分かりやすい。たとえば、尾崎の歌詞では「学校」「家」など「昼のイメージ」が制約のある日常の象徴として描かれる。そんな窮屈さから逃れ、「夜の世界」へと向かうには「バイクを盗む」「窓ガラスをこわす」といった非日常的な行為が必要だったのだ。

 

そして、尾崎の歌詞は不良行為を「自慢げに述べることはしない」というのも興味深い指摘である。尾崎に憧れて校舎のガラスをこわした生徒もいたようだが、「卒業」をしっかり聴けば、「窓ガラスをこわしても大人たちとの闘いは終わらない」という葛藤の歌だと分かるはずだ。

 

「I LOVE YOU」も、現在の受容と本来の内容に違いがある曲である。もちろん、曲の感じ方はリスナーによって変わるのが当然だ。だが、さすがに驚いたのは尾崎の創作ノートから発見された「I LOVE YOU」の原型と思わしき歌詞である。そこには「ある日 あの子に 出来ちまったんだよ」というフレーズがあったのだ。

 

こうなると、「I LOVE YOU」の「何もかも許された恋じゃないから」「若すぎる二人の愛には触れられぬ秘密がある」といったフレーズの意味も変わってくる。そして、「今だけは悲しい歌聞きたくないよ」という出だしから漂っていた、物悲しさや危なっかしさの理由も見えてくる。あくまでも解釈のひとつとして、「I LOVE YOU」は堕胎を経験したカップルの曲だったのだ。

 

尾崎の歌は現代でもさまざまな場所で流れている。だからこそ、歌の内容を聞き流さずに深くとらえてみれば、本当の尾崎豊に出会えるのではないだろうか。

 

文=石塚就一

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