モンスター化するシェフ、食を知らない困った客。いびつなグルメバブルはなぜ起こった?

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『グルメぎらい』(柏井 壽/光文社)

「私はおいしいものが好き!」という人は多いでしょう。私もそうです。そして、外食する時に「おいしそうな盛り付けの料理の写真を撮り、SNSにアップし、“いいね”が得られるとうれしい、ウェーイ!」という人もいるでしょう。私もそうです。今やテレビや雑誌だけでなくネット上にもグルメ情報はあふれています。

本稿では、そんな風潮について論じるという刺激的なタイトルの本を紹介したいと思います。著者は生粋の京都人で食通の歯科医。これまでにも食のあれこれを語った著書があります。そんな彼がまさかのグルメ“ぎらい”とは、一体どういうことでしょうか。みていくことにしましょう。

 

 

■グルメブームの着火点を振り返る――

 

日本で“グルメ”という言葉が一般的なものとなり、そしてさらに広がったきっかけとして、著者は以下の3点を挙げます。

 

・漫画『美味しんぼ』の連載開始(1983年)
・レストラン格付け『ミシュランガイド』の日本上陸(2007年)
・インターネットと、SNSの普及(2000年代~)

 

これらをきっかけに、日本人は老いも若きも、食についてのあれこれを語り、発信するようになりました。いわば、グルメブームの着火点と言えるでしょう。これは食べる側だけではなく、料理人にとっても大きな影響を与えることになりました。常に評価され、それが広く発信されることを意識しなくてはならなくなったのです。

 

 

■おいしいと評価しているものの正体は?

 

目の前のお客さんだけではなく、インターネット上の見えない誰かをも想定しなければならなくなった料理人は、見栄え、いわば“インスタ映え”を意識し、料理のひとつひとつに情報を詰め込みます。

 

例えば数字のマジック。「今日のマグロは大間の“130キロ”です。お造りには一番ええ大きさです」と言われると、不思議なもので食べるほうは「へえ、200キロでも100キロでもなく、“130キロ”が最適なのか」と思い込んでしまうもの。同様に、「うちの肉は58.5度で2時間16分低温加熱しています」などと言われると、数字になんらかの意味を感じ、料理をさらにおいしく感じるようです。そして、料理人を褒めちぎり、それを発信します。それを見た新しいお客さんがまたお店に押し寄せ、褒め、発信するというサイクルです。

 

お客さんが増え、褒められることに慣れてしまった料理人は、強気になって値段を上げたり、さらなる見栄え重視、情報てんこもりの料理づくりに邁進したりすることもあるといいます。もちろん、食材そのものの味や、料理人の技術をいかして料理されたものが多数あるのでしょうが、中には、“情報”による味付けが濃くなっているものもあるかもしれません。

 

 

■グルメバブルに対して私たちはどうすればいい?

 

 

本書では、著者が感じるグルメブームの“きらいなところ”が、「料理人側」と「食べる側」の双方の視点に立って書かれており、日本古来の伝統や料理業界の裏側など、誰が読んでも「なるほど、そうなのか」という新たな気づきが得られる内容となっています。“きらいなところ”で触れられる“褒めすぎブロガー”や、“凄腕カリスマ料理人がいる予約の取れない店”については、具体的に名指しこそされていないものの、日頃からグルメ情報をチェックしている人にとっては、「あの有名グルメブロガーだな」とか「あの有名店のことかな」などと想像がつくようなものもあり、ある種のミーハー心も満たされるつくりになっています。

 

グルメブームの“きらいなところ”に対する指摘はビシビシと辛らつですが、そこは京都人、とてもソフトな語り口でやんわりと語られており、抵抗なく受け入れることができるでしょう。そして何よりも、著者のグルメに対する深い愛情が感じられるでしょう。もともと著者は、グルメぎらいどころか、グルメ大好き人間。現在の歪んだブームが、おいしいものを素直に楽しむ本来のグルメ、さらに言うならば“食の本質”から外れてしまっているのではという危機感を覚え、警鐘を鳴らしているのです。

 

全体を通して伝わってくるのは、料理人と食べる側の両方に向けられた、「見た目やうんちくにとらわれすぎず、もっと誠実に、もっと謙虚に、そして素直に食に向き合ってほしい」というメッセージです。こういった姿勢で向き合うべきは、グルメに限ったことではないかもしれません。そう思うと一層味わい深い1冊です。

 

文:水野さちえ

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