ベンチャーマインドで障がい者雇用に挑戦する

ビジネス

citrus @人事

OKI(沖電気工業株式会社)の特例子会社OKIワークウェル(正式名称:株式会社沖ワークウェル)は、在宅勤務の障がい者が中心となり、ホームページ制作や顧客管理といったWebシステム開発などを行う。通勤が困難な重度肢体障がい者が自宅でパソコンとネットワークを使いこなし、2015年度売上は約2億を数える。同社の障がい者雇用の取り組みと、特例子会社の立ち上げについて取材をした。

 

 

 

■鹿児島の自宅で東京からの仕事を受ける

 

「来月納期のポスター制作についてですが、資料を見ていただけますか」

「わかりました。指定のフォルダにアクセスします」

 

本社(東京)にいる十川清孝チームマネージャーから音声通話ツール(※)「」を通じて指示を受けた新原弘一さんは、鹿児島の自宅からインターネットを通じて資料をダウンロードすると、さっそくポスターの図案の構想を始めた。

 

鹿児島の自宅で仕事をする新原さん

 

業務時間帯はメールやWWCを仮想のオフィスとして使用し、本社メンバーや全国にいる在宅勤務者間で頻繁に連絡を取り合いながら仕事を進める。主な仕事はホームページ制作や顧客管理といったWebシステムの開発などで親会社またはグループ企業からの依頼が中心だ。

 

東京で新原さんとやりとりをする十川氏

 

新原さんは現在、IT第二チームデザイン班に所属し、ポスターやイラスト、ロゴマーク、DTPによる冊子の作成などを行う。頚椎損傷の障がいのため首から下が麻痺し、握力はほぼないため、PC操作はトラックボールマウスを使用し、キーボードは専用の棒を指に挟みキーを1個ずつ押して入力を行いながら、デザインやメールでクライアントとやりとりもこなしている。

 

「重い障がいがありながらも会社が体調に配慮してくださっているので仕事ができており、とても感謝しています」(新原さんのご家族)。

 

新原さんは2004年にOKIワークウェルが設立されたという新聞記事を見てメールで応募して入社した経緯を持つ。新原さんを採用し、現在、OKIワークウェルの代表を務める津田貴氏は障がい者の雇用環境についてこう話す。

 

「意欲や能力がある障がい者に対して、働くことができる環境を作る必要がありますし、まずそういう環境があっても『知らない』ということはなくしていきたい」

 

 

■障がい者雇用の仕組みをゼロからつくりあげる

 

OKIワークウェルは大手企業の特例子会社ではあるものの、最初から親会社の意向で設立された会社ではない。1996年に親会社のOKI内に設置された「社会貢献推進室」が母体となっている。推進室の初期メンバーはソフト開発部門から異動してきた津田氏と、総務部出身の木村良二氏の2人のみ。

 

「まだ世の中でそんな会社はないのでやってみようと。社内ベンチャー提案制度で経営層に訴えて、スタートしました」(津田氏)

 

OKIワークウェル代表の津田貴氏

 

IT企業らしい社会貢献活動の一環として、重度障がい者の在宅雇用を目指した。

 

障がい者の採用や雇用も手探りで始めた。重度障がい者のIT教育を長年やってきていた社会福祉法人に相談し、人材の紹介や在宅勤務のマニュアルを提供してもらった。

 

「採用するうえで一番大切なのは『働く意欲』ですが、そういう場所に行く方はもともと働きたいという意欲があります。マニュアルは参考程度にして、実際に試しながら自分たちのものをつくりあげていきました。始業と終わりに挨拶があったほうがいいからメールでやろうというように」(津田氏)

 

ベンチャーマインドで試行錯誤を繰り返し、WWCのシステム開発や評価・人事制度を少しずつ整備していった。仕事もOKIの総務部の簡単なエクセル入力の仕事から始め、実績を積みあげ、OKIグループからの依頼を受けるまでに業務内容を拡大させていった。

 

 

会社の行事で足を骨折し、2カ月の自宅療養がキッカケで社会福祉分野へ興味を持ち、社会貢献推進室に異動してきた津田氏。会社の立ち上げをこう振り返る。

 

「医者ではないので障がいに関する専門的な知識はないですし、会社の制度や体制も整っていませんでしたが、それが障がい者雇用をやらない理由にはならない。失敗や苦労はありましたけど、自分たちがつくりあげたものを後で誰かが真似をする。それを最初にやる楽しみっていうのがありましたから。ベンチャーの意識でしたね」

 

同社は特例子会社化後、約10年で売上と障がいを持つ従業員の数が2倍に増えた。取り組みは厚労省をはじめ業界内外から評価を受け、毎年多くの企業が視察のため訪れる。

 

 

■働く意欲のある人を採用しマネジメントを任せる

 

会社設立当初はIT技術を教育する社会福祉法人からの紹介で採用を行っていたが、設立後に新聞で取り上げられたことや、OKIワークウェルのコーポレートサイトを制作したことで、障がい者本人からの応募の問い合わせが増え、直接採用するようになった。

 

同社が障がい者を採用する際の採用基準は、以下になる。

 

①社会性がありコミュニケーションができること(「報告・連絡・相談」ができることで、話が巧みにという意味ではない)

 

②情報処理の基本的な知識があること(情報処理技術者試験合格が望ましい)
具体的なスキルで言えば、メールや基本的な文章入力、表計算ソフトが使え、html言語がわかる程度だという。「即戦力ではないものの、1~2年後にある程度の仕事ができるレベル」(OKIワークウェル代表・津田貴氏)。

 

入社後のスキルアップには力を注ぐ。一人ひとりに約3年間の育成計画表を作成し、1カ月ごとの期間や仕事の案件ごとに目標を立て、本人と指導するディレクターがフィードバックをする。その指導するディレクター自身も障がい者だ。

 

ディレクターになるためには例えば3つ以上のプロジェクトを並行して取りまとめや、クライアントと対外的なやりとりができることなどが求められる(2015年現在でディレクターは5人)。ディレクターの前段階としてプロジェクトごとに、希望すれば業務を細分化した際のまとめ役を担当するリーダーを経験する機会が与えられている。

 

【提供:OKIワークウェル】

 

ディレクターになると、時給や賞与も当然上がる。年2回、在宅勤務者とディレクター、上司や津田氏が同席して行うスキルアップ面談があり、本人のキャリアアップの意向をヒアリングして、任せる仕事の内容やレベルなどを決めるようにしている。そのほかにも技術分野別の勉強会も定期的に開催し、全体のレベルの底上げも図っている。

 

「在宅勤務者の中からリーダークラスが育ってきて、ディレクターへと登用されていく。自主的な運用ができるようになっただけでなく、社員のモチベーションが高くなり生産性も向上していった」(津田氏)

 

●参照

 

 

■障がい者雇用の裾野を広げる

 

OKIワークウェルは、これまでに培った在宅勤務のノウハウや(※)ワークウェルコミュニケータ(WWC)のシステムを提供することで、障がい者雇用の裾野を広げる取り組みを展開している。平成28年4月より施行される「改正障害者雇用促進法」に合わせ、各社が障がい者雇用を推進していく気運が高まるなか、同社の取り組みは、スキルの高い障がい者採用に貢献できると注目されている。

 

障がい者雇用の裾野を広める取り組みに力を注ぐ想いを、津田氏はこう語る。

 

「障がい者自身が働き方を知らない、雇用側が雇用したいけどやり方がわからないという状況をなくしたい。もちろん健常者でも能力がなければ就職はできません。それはしかたがない。ただ、意欲や能力があるのであればそれを生かせる環境を作ってあげる必要はあります。なにより、『知らない』というのは一番もったいないですよね」

 

同社は2011年から肢体不自由特別支援学校を対象とした「キャリア教育の出前授業」を開始。2015年現在で22校を訪問し、障がい者による多様な働き方の講話やWWCの実演などを行っている。また、移動困難な重度障がいを持つ生徒のために、電話での挨拶マナーやPCの操作方法、プログラミングといったより実践的な訓練をインターネットを介して請け負う「遠隔職場実習」も行っている(2015年現在で全国29校・71名が参加)。

 

そして現在、力を入れているのが障がい者の在宅雇用を始めようとする企業への導入支援だ。これまでは企業見学の受け入れを行っており、毎年10社ほどが同社を視察し、実際に見学がきっかけで在宅雇用を始めた会社もいるが、今後はさらに一歩踏み込んだ支援をしていく。例としては、導入を検討する企業の担当者に在宅勤務者の自宅へ案内し、障がい者と直に接して慣れてもらうことや、在宅勤務者と電話やメールでコミュニケーションをしてもらうことを想定。アドバイスと体験を含めたコンサルティングを実施していく予定だ。

 

 

■多様な障がい者の働き方を知ることから始める

 

OKIワークウェル代表の津田貴氏

 

津田氏は障がい者雇用を考える人事担当者へ次のようにアドバイスを送る。

 

「育児女性の活躍、介護離職者の解消、BCP対策も含め、在宅勤務の推進は今後の経営や人事施策のキーワードになる。在宅勤務に対する心配はあるかもしれませんが、『やってみなければ何もわからないし、何も起こらない』。障がいは持っていても優秀な人材を採用できるかもしれません。まずは一歩踏み出して不具合があったら微調整を繰り返していけば良い。障がい者雇用の姿は在宅勤務だけではなく、知的障がい者や聴覚障がい者に合った働き方もあります。まずは、いろいろな働き方があるということを知ってほしいですね」

 

●脚注

 

※「」:インターネットを介し、PC上で在宅勤務者と本社社員など場所の離れた複数メンバー同士で一度に会話することが可能な常時接続型多地点コミュニケーションシステム。評価や労務管理にも役立てられる。

 

●参考情報

 

・「」-厚生労働省

・「」-厚生労働省

 

●会社概要

 

(東京都港区芝浦)

OKIの特例子会社を目指し2004年に設立。全社員数74名のうち障がい者が62名。62名中41名が重度障がいの在宅勤務者。通勤困難な重度肢体障がい者は、自宅でパソコンとネットワークを活用してホームページ制作やWebシステム開発(顧客管理システム、研修システムなど)冊子類の編集や各種デザインなどの業務を行っている。

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

@人事

人事向けフリーペーパー&ウェブサイト「@人事」。人事のために役立つ情報をほぼ毎日更新しています。 @人事 https://at-jinji.jp/

ページトップ