海外が「児童虐待」と呼ぶ高校野球の闇―「玉砕球児」や「早熟の才能」はどうすれば防げるか

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『甲子園という病』(氏原英明/新潮社)

「腕が壊れても最後までマウンドにいたかった。今日が人生最後の日になってもいいと思いました。」

現・西武ライオンズの投手、菊池雄星(当時は花巻東)は高校3年生のとき、背中の痛みに耐えながら甲子園のマウンドに立った。試合後、菊池の言葉は感動的に報道され、高校野球ファンから大きな反響を呼んだ。しかし、冷静に考えれば、将来はプロ野球でエースを担えるほどの才能が高校時代に「人生最後の日になってもいい」と語ってしまう心理を「感動」で片付けてしまっていいわけがない。

 

『甲子園という病』(氏原英明/新潮社)は、長年、高校野球の現場を見守り続けてきたジャーナリストによる、問題提起の一冊である。ある海外スカウトは甲子園を取り巻く環境について「child abuse(児童虐待)」と評した。現在の高校野球は、果たして球児たちの才能と体を守るために適したシステムといえるのだろうか。「伝統」や「感動」といった言葉で覆い隠されている高校野球の闇を、本書は告発していく。

 

菊池のように、故障を抱えながらも無理をして試合に出続ける高校球児は日常的に存在する。それがチームの中心である投手で、甲子園の大舞台ともなれば、出場を受け入れる球児はさらに多くなる。著者はこうした現象を「玉砕球児」と呼び、選手生命を縮める行為として厳しく批判する。しかし、現実には、菊池のように、自主的に出場を志願する球児も少なくないのだ。

 

2013年夏の甲子園、木更津総合の五島監督は2回戦でエースの千葉投手を先発させた。しかし、右肩が限界に達していた千葉は山なりのボールを投げるのが精一杯。わずか6球で降板する。まさに「児童虐待」と呼ばれてもおかしくない監督の采配だったが、著者のインタビューに応じた現在の千葉は「申し訳ない」と口にした。千葉は「わがままを言って投げていた」と主張し、監督をかばったのである。

 

また、長い間苦楽をともにしてきたチームメイトへの責任もある。玉砕球児を減らすには、単に指揮官さえ批判すればいいというものでもない。選手人生の中で甲子園をどう位置づけるかの意識を、高校野球界全体で変えなければいけないのだ。

 

選手の「早熟化」も、甲子園の弊害だと著者は指摘する。名門校にとって甲子園出場、あるいは優勝は目標だ。そして、名門校に入学してくる選手たちも長期的には「プロ入り」を目指しながらも、いつしか目先の「甲子園優勝」に選手生命を捧げるようになっていく。その結果、選手としてのピークが高校時代に前倒しされ、プロ入り後、伸び悩む才能が続出する。藤浪晋太郎(阪神)や斎藤佑樹(日本ハム)といった、甲子園優勝校のエースたちが、プロになってから短期間でキャリアの下降線を辿り始めているのは代表例だろう。むしろ、同学年として藤浪と比較され続けた大谷翔平(エンゼルス)のように、高校時代は課題があったくらいの選手の方がプロ入り後に成長しているのは興味深い。

 

そのほか、スター扱いして高校球児を潰してしまうメディアの報道、「プレイヤーズ・ファースト」よりも日程の消化にばかり心を砕く日本高野連など、いまだ高校野球に巣食う問題点は山積みだ。そんな中、大人たちはどうやって球児たちの心と体を守るべきなのかまで本書は踏み込む。そう、どんなに才能があっても甲子園を目指しているのは18歳以下の「子供」であることを忘れてはいけない。

 

2014年のセンバツで初出場を果たした美里工のように、文武両道を実践しながら球児たちの人間教育に努めているチームは高校野球界の新しいモデルケースになりうるだろう。本書には登場しないものの、今年夏に旋風を巻き起こした金足農も、高校野球に一石を投じてくれた。犠牲や我慢を美徳とする価値観を考え直し、現場もファンももう一度、「野球を楽しむ場所」としての甲子園を支えていくべき時代が訪れているのだ。

 

文=石塚就一

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