BMWアルピナ B6 2.8/2を普段使いする!

ライフスタイル

GQ JAPAN

絶版名車とは「今もその当時の存在感や魅力があせることなく、現在のクルマにはない“味”をもち続けるクルマ」である。クラシックカー市場が高騰し続けるいま、そんな先取りしたい絶版名車を紹介する。

 

E36型3シリーズをベースにしたB6 2.8/2。1992年から1993年にかけて生産したモデルで、最高出力は248ps、最大トルクは293Nm。0→100km/h加速は6.9秒、最高速度は250km/h以上。20年前のクルマであることを考えれば驚異のスペックといえる。ただし、そういった数値以上に、エンジンフィーリングや走りの味わいといった感性に訴える部分が秀逸だ。ボディサイズは全長4433mm、全幅1698mm、全高1378mm、ホイールベースは2700mmとコンパクト。

 

■BMW ALPINAとは何か?

 

「BMWアルピナの絶版モデルを今、あえて普段使いする」というのはなかなか素敵な行為であると思う。しかしいくつかの注意点もあるにはあるので、それについて述べてみたい。

 

だがその前に「アルピナとは何か?」ということを軽く説明しておかねばなるまい。

 

アルピナ(Alpina Burkard Bovensiepen GmbH&Co)はドイツ・バイエルン州に本拠を置く、いわゆるチューニングカーメーカー。ただし「チューニングカー」と言っても町工場ライクな場所でド派手なエアロパーツや車高調整式サスペンションなどを少量生産しているアレではなく、れっきとした「BMW社の正式パートナー」だ。

 

もともとは事務機器メーカーだったアルピナ社だが、創業者の息子Burkard Bovensiepen(ブルカルト・ボーフェンジーペン)が1961年頃、BMW車のチューニングに傾倒。そして自作のBMW用チューニングパーツの製造販売を始めると、これが巷で大評判になったのみならず、本家BMW社からも高評価を得る結果となった。

 

そして1965年にはBMWチューナーとしてのアルピナ社を設立。以降はBMW社の公認チューナーとなり(アルピナ社がチューニングした車両にもBMW社の保証が付く)、超一流ドライバーたちを擁してツーリングカーレースにも参戦した。

 

ヨーロッパツーリングカー選手権など数々のビッグタイトルを獲得しつつ、1978年からはBMWをベースとするコンプリートカー(完成新車)の製造販売も開始。そして1983年にはドイツ自動車登録局から正式に自動車メーカーとして登録されるに至った。

 

そう。冒頭近くでアルピナ社のことを「チューニングカーメーカー」と言ったが、正確に言うならばそれは間違い。アルピナとは、BMW製のクルマをベースとしつつも「それとはまったく別の新車」を製造している自動車メーカーなのだ。

 

 

BMW ALPINA B6 2.8/2
写真はE36型の一世代前となるE30型をベースにしたアルピナのB3 2.7。BMWをベースとしてながらオリジナルの存在感が独特。

 

 

■パーツの重量差は驚異の1/1000g

 

アルピナが作るBMW(ブランド名=BMWアルピナ)と、一般に広く売られているBMW車との違いは何か? それは内外装のデザインおよび素材からサスペンションのゴムブッシュに至るまでの多岐にわたるのだが、根本的な違いは「公差」なのではないかと筆者は思っている。

 

公差とは、工作物の目標寸法に対して、出来上がった製品に許される最大寸法と最小寸法の差のこと。やまとことばで言うなら「許し代(ゆるししろ)」である。

 

何かを工作しようとすれば、どうしたって測定値と真実の値(真値)との間には一定の誤差が生じる。その誤差をどれくらいまでならOKとするかというのが各社の個性や考え方なわけだが、当然ながらBMW社の通常製品も、部品類の公差は小さめである。小さめであるからこそ、シルキーシックス(絹のような6気筒)とも称されるあのエンジンフィールが実現できている。

 

だがアルピナは、そこから先をさらに詰めているのだ。

 

具体的に言うなら、例えばエンジン内部にあるピストンの重量公差はアルピナ車の場合、1/1000g。……ほとんど0gのようなものだ。当然ながら大量生産用のラインでそのような代物は作れないため、アルピナでは熟練職人による手作業によって驚異の公差を実現させている。

 

その結果、BMW製エンジンに対する「シルキー」という形容のさらに上を行く、……なんと言えばいいのか語彙力が不足していて大変恐縮だが、「ウルトラスーパー超絶シルキー」とでも形容したくなるフィールを生んでいるのだ。

 

繊細なインテリアの仕上げを含め、今どきこのような手作業を随所に必要としているアルピナ車だけあって、生産台数はきわめて少ない。というか、少なくならざるを得ない。以前の年間生産台数はわずか700〜800台程度で、最近のそれもせいぜい1400台ほど。ちなみに通常のBMW車は1年間で200万台以上生産されている。

 

さて。そのように製造されているBMWアルピナの各モデルを購入する場合、当然ながら「現行世代」は素晴らしい選択肢だ。高性能であり、前述のとおりのスーパーシルキーであり、保証も付いている。世間体だって良いだろう。

 

問題は「絶版系」を選ぶ場合だ。

 

筆者は12年ほど前、カーマニアの間ではE46と呼ばれる2世代前のBMW 3シリーズをベースとするアルピナ車、「B3S」というモデルに乗っていた。2004年式の低走行中古車を2006年に購入したのだ。

 

「素晴らしい」なんて言葉では形容しきれないほど素晴らしいサルーンであった。あれから12年が経過した今も、その中古車はなかなか素晴らしい感触をドライバー各位に与えてくれるはずだ。

 

だが同時に、今やそれは「中途半端に古いクルマ」でもある。

 

ピストンなどの重量公差が0gに近いそのエンジンは、今でも痺れるような快楽をドライバーに与えてくれるだろう。しかし「クルマ全体」として見れば、さすがにあちこちがくたびれていることは否めない。

 

そういった「くたびれ」を押してまで「中古のアルピナB3Sを買うべきか?」と問われたなら、答えは微妙だ。「それならばフツーの3シリーズとか5シリーズとかを新車で買うよ」という意見には、絶版車びいきの筆者であっても反論しにくい。むしろ「おっ、いいじゃないですか!」と背中を押したくなる。

 

BMW ALPINA B6 2.8/2
近年のアルピナはBMWのラインナップ拡大に合わせて、多用なモデルを開発。写真は3リッター直6ディーゼルエンジンを搭載した現行型のD3ビターボ(車両価格1031万円〜)。ディーゼルエンジンを使いながらもその走りはスポーティでパワフルだ。数十年後にはこれから絶版名車となる可能性も大きい。

■本物の中の本物

もしも絶版系のBMWアルピナを普段使いするというのであれば、中古車には付き物の「くたびれ感」などいっさい気にならないほどの圧倒的な何か、歳月など物ともしない魅力や魔力が備わっていたアルピナ車を選ぶべきだろう。そうでないならば、おとなしく新車のビーエムか何かを買ったほうがいい。

 

だが、そのように「圧倒的な魅力と魔力を備えている中古のBMWアルピナ」などという都合の良いものが、今現在の市場にあるのだろうか?

 

実は、ある。ごく稀にだが市場に出てくる「BMWアルピナ B6 2.8/2」というモデルが、間違いなくそれに相当する。

 

B6 2.8/2は、マニアの間では「E36」と呼ばれた3世代前のBMW 3シリーズをベースに作られたアルピナ車だ。

 

この世代のアルピナ車では、同じE36型をベースに作られた「B3 3.0/1」または「B3 3.2」というモデルがもっともメジャーな存在だ。だが1993年登場のB3系は、さすがのアルピナ社もコストダウン的な考え方を採用した後に作られたモデルであるため、筆者が乗っていたE46型B3Sと同様の理由で「決して悪い選択ではないが、今さら積極的に推すかと言われれば微妙」といったニュアンスの存在だ。

 

だが1991年に登場し、全世界でわずか181台だけが手作業で生産されたB6 2.8/2は、姿形こそ後のB3系とほぼ同じだが、中身はまったく異なっている。

 

エンジンのバランス取り(ピストンなどを手作業で磨き込み、前述の公差をゼロに近づける作業)は超絶完璧に行われ、特別なビルシュタイン製ショックアブソーバーは1本ずつの細かな精度検査に合格したものだけが装着され、後のB3系ではオミットされたレカロ製の電動シートが純正装着され、そしてボディ各部が慎重かつ合理的に補強されている。

 

つまり「アルピナが本当のアルピナだった時代」に作られた3シリーズがB6 2.8/2であった──ということだ。

 

現行世代のBMW 3シリーズと比べてひと回りは確実にスリムかつタイトなホディに、最高出力248psの完全バランスな手仕事系2.8リッター直列6気筒DOHCを載せ、比較的ハードだが、なぜか非常にしなやかでもある足回りを堪能できる、ちょっとだけクラシックなビジュアルの、世界的に見ても希少なモデル。

 

これこそが絶版名車ならではの醍醐味をフルに味わえる選択肢のひとつであると、筆者は強く断言したい。

 

流通量がきわめて少ないため明確な「相場」は提示しづらいが、市場に出てくるときはおおむね200万円から300万円台。下世話な話ではあるが、丁寧に乗っていれば大きな値落ちもしないだろう。

 

若者向けメディアがよく言うようなセリフで恐縮だが、もしもコンディションの良い個体が出てきたならば「即買い!」の精神で臨みたい絶版名車だ。

 

文:伊達軍曹

この記事が気に入ったらいいね!しよう

GQ JAPANの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

GQ JAPAN

GQ JAPAN

総合ライフスタイル誌『GQ JAPAN』は、ビジネスとプライベートの両方で“本質”にこだわる男性のためのメディアです。世界19カ国で発行されており、日本では2003年4月に月刊誌として創刊、2011年にはウェ...

GQ JAPANのプロフィール&記事一覧
ページトップ