「石橋を叩いても渡らない」JR東日本がはじめたJRE POINTの勝算

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citrus Moneytree広報部

 

■JRE POINTとは

 

JR東日本が2月23日からスタートさせた新しいポイントサービスです。JR東日本グループには、電子マネーのSuicaに付帯したSuicaポイントがあります。さらにクレジットカードのビューカードのビューサンクスポイントがあります。

 

また、アトレ、グランデュオといった首都圏に点在する駅ビルにはそれぞれのポイントがあって買い物によく使われています。そのほかにもメトロポリタンやホテルメッツなどのグループホテルもあり、こちらも宿泊に応じてポイントのつくサービスを実施しています。

 

 

■JRE POINT誕生の真相

 

これらのポイントはもともと各事業者が独自に発行したものです。そのため互換性がなく、互いに貯めたり、使ったりすることはできません。それが利用者にとっての利便性を損ね、普及が伸び悩む原因になっていました。

 

JR東日本としては、このままではいまの共通ポイントブームに乗り遅れ、消費者の不興を買うというので、急遽、共通ポイント化を宣言したというのが、真相です。その手始めが個々の駅ビルがそれぞれに行っていたポイントサービスの共通化だったのです。

 

これまでJR東日本管内のアトレやテルミナ、グランデュオなどの駅ビル店がそれぞれ個別に発行していたポイントカードをJRE POINTに切り替えたわけです。

 

 

■将来はビューサンクス、Suicaポイントとも共通化

 

JR東日本では、プレスリリースで次のように謳っています。

 

「グループ経営構想V~限りなき前進~」で掲げる一体感のあるグループ経営を進めるため、JR東日本グループの共通ポイント「JRE POINT(ジェイアールイー・ポイント)を開始します。これにより、貯めやすく、使いやすいポイントサービスを実現します。まず、2016年2月より、アトレ、ボックスヒル、グランデュオ、シャポー、テルミナのポイントを「JRE POINT」に共通化します。その後、他の駅ビルのポイントも共通化していきます。さらに、ビューサンクスポイント、Suicaポイントも将来的に「JRE POINT」への共通化を目指します」

 

賢明な読者の方は、駅ビル大手のルミネの名前がないことに気づいたかもしれません。そのわけは、ルミネはすでにビューカードと提携してルミネカードでビューサンクスポイントが貯まる仕組みになっているからです。

 

そのため、今回のJRE POINT開始の動きからは外れています。ルミネ以外のアトレ(恵比寿、吉祥寺など)、ボックスヒル(取手)、グランデュオ(立川、蒲田)、シャポー(市川、船橋など)、テルミナ(錦糸町)などの駅ビルのポイントが共通ポイントのJRE POINTに移行するのです。

 

 

■一部の利用者は新しくカードを作成する必要あり

 

ただし、すべてが一斉に新ポイントカードに切り換わるのではありません。というのも、JRE POINTのシステムは会員数の多いアトレクラブポイントに合わせることになりましたから、アトレとそのシステムを共有しているボッスクヒルのポイントカードは現状のまま共通ポイントカードとして使えます。

 

しかし、そのほかの駅ビル(グランデュオ、シャポー、テルミナなど)の利用者は新しくJRE POINTカードをつくる必要があるということになりました。

 

 

■JRE POINTのメリット

 

JRE POINTカードは買い物や食事での提示で100円(税込)で1ポイント貯まり、1ポイント1円で、次の買い物をするときに使えます。JR東日本が提供するサービスに利用することもできます。たとえばさいたま市の大宮にある鉄道博物館の入場券やメトロポリタンホテルや東京ステーションホテルの優待券と交換できます。これなどは、JRE POINTならではの特長といえるでしょう。

 

私の最寄り駅は中央線の立川駅です。これまでグランデュオ立川のポイントカードを利用していましたが、今後はJRE POINTカードを新しくつくらねばなりません。ただ、これをつくってしまえば、恵比寿のアトレで買い物をしても同じポイントが貯まるのでとても便利になります。

 

将来的には、ビューサンクスポイント、Suicaポイントとの統合、共通化も予定されていますから、駅ビルの利用もオトクなSuica経済圏に組み込まれて、使い勝手が抜群によくなることでしょう。

 

 

■「共通ポイントとは名ばかり」という落胆の声も

 

ただ、共通ポイントというからには全国で使えたり、Suicaとの連携がすぐにでも実現するのでは、と思った人も多いようです。ところが実際には、単にローカルの駅ビルのポイントが少しだけ共通化するという話なので、「これで共通化というのなら、何だって共通ポイントになってしまうよ」という人もいます。

 

JRの共通ポイントは風呂敷を広げた割には小さな動きだったので、「あてがはずれた」というところかもしれません。しかし私は、JRE POINTのスタートは共通ポイント業界全体の行方を大きく左右する、本格的なすそ野の広い動きだと見ています。

 

 

■オートチャージが便利なSuica

 

私は毎日、事務所に通うのにモバイルSuicaを使っています。クレジットカードのビューカードと一体になった「ビュー・スイカ」カードのアプリをスマホに入れているので、スマホを改札機にかざすだけで電子マネーの残高が1000円以下になると自動的に3000円チャージ(入金)されます。

 

ですから、うっかりチャージするのを忘れてしまい、残金が不足していて改札を通れないということがありません。しかも、チャージ残高とチャージ金額は1000円単位で自由に設定することができます。

 

このようにSuicaはとても便利なので、通勤だけではなくコンビニなどでの買い物にもせっせと使っています。このSuicaがJRE POINTと共通化され、各地の駅ビルで買い物をしたときにもらえるポイントをSuicaポイントに替えられるようになるとさらに便利になります。Suica経済圏に組み込まれることで今まで以上におトクがとれるようになると考えるとワクワクします。

 

 

ただ、これまで共通ポイントという掛け声だけは威勢がよくてもすぐに尻すぼみになるポイント事業者も多かったので、「JRE POINTもどうせそのひとつだろう」という人もいます。でも私はそうは思いません。素直に期待しているのです。というのは、次のような理由からです。

 

 

■JR東日本は石橋を叩いても渡らない会社

 

私はこれまでにJR東日本やビューカードの本を書くためにかなり突っ込んだ取材をしてきました。そのときに思ったことが二つあります。

 

一つは、JR東日本は石橋を叩いても渡らないような、極めて慎重にことを進める会社だということです。新たにビッグプロジェクトを始める前に、それこそ右も左も上も下も裏も表もすべて徹底的に検討します。そういう会社ですから、今回、共通ポイントをスタートさせたということは、それなりの勝算があってのことだと思います。

 

憶えている方もいるかもしれませんが、JR東日本ではかつて「イオカード」という磁気式のプリペイドカードを発行していました。駅の券売機で切符を買ったり、切符がわりに改札機に入れて通ることができるというものでした。

 

その「イオカード」をICカードに変えるべきか否かで、JR東日本では、1990年代後半に侃々諤々の議論が行われていました。ICカードに変えるには大変な費用がかかるが、その効果がどのくらいあるのかよくわからない、というわけで、改札機のリニューアルも「イオカード」の継続を前提にして考えるべきだという声が多かったようです。

 

ところが、ある社員が「非接触のICカードに変えて改札機をスイスイ通れるようにすれば毎月数億円のコスト削減になる」と提言したのです。「イオカード」は磁気カードなので改札機を通すたびに改札機のなかに磁気ストライプの滓(カス)が貯まる。

 

その滓を取るためのメンテナンスが必要で、莫大な経費がかかっていたそうです。首都圏のJRの駅の数とそこに設置されている自動改札機の数を考えると、相当なメンテナンス費用がかかることは容易に想像できます。非接触のICカードにすればその経費がゼロになるというわけです。

 

そこであらためて検討を重ねた結果、コストパフォーマンスの良さからICカードの導入が決まったのです。

 

 

■JR東日本の鉄道会社としての強み

 

もう一つ、取材を通して感じたことは、鉄道事業者なので、時刻表通り正確に電車を運行するように、プロジェクトを進めるときも綿密なスケジュールを立ててそれをしっかり守るということです。

 

Suicaはもともとは電車に乗るための乗車券でした。途中から買い物にも使えるということがわかって、実用化が始まったわけです。最初のころは「電車にも乗れて買い物もできますよ」といっていわば無手勝流で加盟店を増やそうとしたのですが、なかなかうまくいきませんでした。

 

そんなときにある社員が、「まず集中すべきは駅ナカだ。駅のなかでお客様が楽しく買い物ができるように、Suicaが使える売店や飲食店を整備しよう。それがうまくいったら次は駅ソバ。駅の近くのコンビニやファストフード店で使えるようにしよう。そして、それが終わったら今度は街ナカだ。そんなふうに順を追って増やしていこう」と提案したのです。その結果、いまでは駅ナカはもちろん、駅ソバ、街ナカのかなりの店でSuicaが使えるようになりました。

 

実をいうと、しっかりした事業計画を立て、それを最後までやり通すカード事業者はあまり多くありません。方針がコロコロと変わる企業が少なくないのです。それだけに今回、JR東日本という会社がJRE POINTという共通ポイントを立ち上げたことは、大いに注目されます。

 

 

■将来は共通ポイントを世界規模で展開!?

 

なぜJR東日本は、共通ポイントカード化に踏み切ったのでしょうか。その背景にあるのは、ビッグデータの処理ができるようになったことではないでしょうか。3年ほど前になると思いますが、Suicaの顧客データを大手メーカーに売るという話が事前に漏れて、マスコミや他の企業から叩かれたことがありました。

 

今度はその失敗に学んで、Suicaに集積される膨大な顧客データを一段高いレベルの消費データにするために共通ポイントが必要だと考えたのだろうと思います。そこで、JR東日本だけではなく全JRで使えるような共通ポイント化をおそらく視野に入れているのではないかと想像します。Suicaはすでに全国区になっているのですから、決して不可能ではありません。

 

さらに、訪日外国人(インバウンド)向けの共通ポイントというものも考えられます。特に中国の銀聯カードとうまく提携すれば、日本に大挙してやってくる中国人を取り込むことができるかもしれません。

 

それがうまくいけば、新幹線の輸出先の国で日本発の共通ポイントを根づかせるといったことも夢ではないでしょう。JR東日本がそこまで構想していたとしても不思議ではありません。そう考えると、たかが共通ポイント、されど共通ポイントです。JRE POINTの今後に期待しましょう。

 

 

●著者プロフィール

 

岩田昭男

消費生活ジャーナリスト。1952年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了後、月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。

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