政治家の時計で民主主義の成熟度がわかる?

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持ち主のキャラクターを深読みするなら政治家の時計が面白い、と語るのは時計ジャーナリストの広田雅将。その理由とは?

 

 

仕事柄、人の時計はよく見るし、時々は意見を求められる。「こういう時計を着けてる〇〇さんは、どういう人に思われますか?」。

 

いわゆるセレブリティの時計は注目を集めるけど面白くないし、分析のしようもない。というのも、だいたい「紐付き」だからだ。なかには興味深い人もいるが、そういう人に限って、表に出すことができない。マイケル・ジョーダンの時計なんて、とっても面白いのに。

 

いいか悪いか、好きか嫌いかはさておいて、いちばん持ち主を理解しやすいのが政治家の時計だと思っている。紐付きかそうでないか、どれぐらいの資産を持っているのか、どういう風に見られたいと思っているのかなど、深読みできる、あらゆる要素に満ちているからだ。

 

一般論を言うと、民主主義が成熟した国ほど、政治家の時計は地味になる。たとえばドイツ。政治家たちが好むのは、クリーンで目立たないノモスだ。知的に見えるし、価格も高くない。それに、目立たないから反感を買うこともなさそうだ。

 

スイスの大統領も同じで、ある人はシンプルなIWCの「ポルトギーゼ」を着けていた。関係者に聞いたところ、大統領が選ぶのはIWCが上限で、それ以上は貴族の時計になるから着けない、とのことだった。

 

カナダの首相である、ジャスティン・トルドーも、憎らしいほど時計選びがうまい。彼が好むのはIWCのポルトギーゼの、しかもレギュレーターである。IQが高そうに見えるし、SSケースだから反感を買うこともないだろう。意図しているかは不明だが、彼は嫌われる要素を巧みに避けているわけだ。カナダ人がトルドーを支持するのも納得だ。

 

いっぽう、民主国家の政治家としてうまくなかったのがヒラリー・クリントンである。彼女は長らく、ブレスレットまで金無垢の、高価なロレックスを使っている。これは、アメリカのエスタブリッシュメントが好む時計で、彼女が選択したのは当然だろう。正確なうえ、1本あればどんなシチュエーションにも対応する点を、彼女も好んだのだろう。

 

しかし、金無垢のロレックスを着けて大上段に話す政治家を、普通の人が歓迎するとは思えない。だが結局アメリカ人は、同じようなキラキラした時計を着けているドナルド・トランプを大統領に選んだのだが。オバマ大統領とビル・クリントン大統領は、ヒラリーと同じ民主党に属しているが、あざといほど安価な時計を着けていた。彼ら2人が時計に興味をもっていなかったのは事実だが、少なくとも、どう見られるかを意識していたことは間違いない。ヒラリーに彼らのような視点があれば、ひょっとして大統領になったかもしれぬ。

 

こういう言い方をすると身もふたもないが、民主主義が成熟から遠く離れるほど、あるいは政治家に権威が求められるほど、彼ら・彼女らの時計は豪華になる。

 

例えば、ロシアのプーチン大統領。彼は王侯貴族のような時計を着けて、自在にふるまっている。ヨーロッパならばメディアに叩かれそうだが、ロシア人は、プーチンと側近たちが、ツァーリのように暮らしていることを喜んでいるフシがある。

 

フランスの大統領も似ていて、彼らは総じて”時計持ち”だ。フランスは大変な民主国家だが、大統領には権威が必要と思われているし、フランスのメディアはその点に関してかなり甘い。何人かの大統領は、明らかに”紐付き”だ。

 

時計から見ると、東南アジアと中国は民主主義からは程遠い。とりわけ習近平が賄賂の取り締まりを厳しくするまでは、中国の高官という高官が、こぞって高価な金無垢の時計を着けていた。ただ、中国の場合、政治家の時計に対して、民衆の見る目は年々厳しくなっている。中国が民主主義国家として成熟していく道に向かおうとしている前兆ならばそれに越したことはない。

 

では、わが日本はどうなのか。筆者の見た限りで言うと、安倍晋三首相の時計選びは、ヨーロッパの政治家のそれに似ている。彼が着けている時計は、地味なグランドセイコーにアストロン、そしてオメガのスピードマスターの自動巻きだ。安倍政権に関して意見は人それぞれだろうが、時計を見る限り、日本は案外まともな民主国家ではないか、と筆者は思って(願って?)いる。

 

さて、今や政治家に求められるのは、剛腕であるらしい。権威が求められるということは、時計もそうなるのだろうか。かといって、皇帝のような時計を着けていると、民衆からの反感を買ってしまう。では、政治家はどうふるまうべきか。今後、彼ら、彼女らの腕元からは、一層目が離せない。民主主義の成熟度から世相まで、時計からわかることは思いのほか多い。

 

文:広田雅将

 


広田雅将

1974年、大阪府生まれ。時計ジャーナリスト。『クロノス日本版』編集長。大学卒業後、サラリーマンなどを経て2005年から現職に。国内外の時計専門誌・一般誌などに執筆多数。時計メーカーや販売店向けなどにも講演を数多く行う。ドイツの時計賞『ウォッチスターズ』審査員でもある。

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