子どもの命は親のものではない。“心愛さん虐待死”は「わたしたちの問題」でもある

話題

 

「お父さんにぼう力を受けています。先生、どうにかできませんか」。SOSを大人に発していた小学4年生、10歳の栗原心愛(みあ)さん。ですが誰も彼女を救うことはできず、その1年あまり後、自宅の浴槽で変わり果てた姿で発見されることになってしまいました。

 

千葉県野田市で発生した事件に、「学校は、教育委員会は、児童相談所は、いったい何をやっているのか」と憤った人は多いことでしょう。担当者の責任は重いものです。ですが、彼らを責めるだけでは、“次の心愛さん“を防ぐことはできません。

 

私たちが気づかねばならないことは、「子どもは家庭だけ、学校だけで育てられるものではない」ということではないでしょうか。

 

 

■「明確なSOS」は、3回

 

心愛さん事件の特徴のひとつは、10歳という彼女の年齢です。虐待が起きやすいのは0歳などの乳幼児が多いのですが、心愛さんはしっかりと自分の意思を大人に伝えることができる年齢でした。

 

だからこそ発せられた「明確なSOS」は、少なくとも3回あったと思います。

 

1回は、「ぼう力を受けています」という学校へのアンケート。

2回目は、「叩かれたというのは嘘です」という手紙が、「父親に書かされたもの」だと、児童相談所の職員にこっそり打ち明けた時。

3回目は、今年1月の始業式以降の「不登校」という事実です。

 

最後はもう、言葉で発せられたものではないのですが、一時保護されていた子どもの長期欠席は、緊急事態として動かなければならないSOSだったと思います。

 

 

■凶暴化する親…それでも子は親を愛する

 

大人たちが動けなかった理由。そのひとつが、今回の事件のもうひとつの特徴である、加害者となった父親の言動です。

 

学校や教育委員会の職員らに対して父親は、「訴訟を起こす」などと威圧的に迫ったため、大人たちは、「恐怖」を感じ、屈してしまいました。大人でも怯えるほどの「恐怖」に、日常的にさらされているであろう少女への想像力は、欠けていました。まるで学校も児童相談所も、父親にコントロールされてしまったように見えます。

 

心愛さんは、「お父さんお母さんと一緒に暮らしたい」と職員に話したそうです。どんなにひどい仕打ちを受けても、子どもたちは親を愛しているのだということを、私たちは心に留める必要があります。私が過去に取材した、虐待経験のある子どもたちの声からも、そう感じます。

 

彼ら彼女らの心の中には「次に会った時には、優しいお父さん(お母さん)に変わってくれるかもしれない」という淡い期待があるのです。心の中にある「かつて優しかったお父さん(お母さん)」の記憶に、すがりたい思いもあるのでしょう。

 

だからこそ、親子を切り離すことが必要か判断する際には、「子どもが一緒に暮らしたがっている」ということを理由にしてはならない、と思うのです。子どもたちの淡い期待は、裏切られてしまうことが少なくないからです。

 

 

■子どもは、「社会で」育てるもの

 

虐待やDVの加害者が、第三者の介入を拒んで恫喝したり、高圧的な態度をとることは決して珍しくありません。そうした場合は、学校や児童相談所だけで対応するのは不可能です。抱え込まずに、すぐに弁護士に情報を共有し、連携して対応することが必要です。

 

威圧的な言動は、「強要罪」や「不退去罪」といった犯罪にあたる可能性もあります。警察への相談も、躊躇すべきではないでしょう。虐待が疑われ、一時保護したあと、家庭に返された子どもに対しては、特に虐待の再発を疑い、見守りを続けることが大切です。

 

その目は、学校と児童相談所だけでは足りません。教育委員会、弁護士、警察が「リスク児童」の情報をITで共有化することも、真剣に議論すべき時に来ていると思います。ひとりひとりの子どもに対し、複数の大人の目で見守ることは、とても重要です。誰かが判断を間違っても、別の誰かが修正することができるからです。

 

専門的な立場にいなくても、子どもが置かれた環境や、発育に目をくばり、声をかけ、見守ること。時には声をあげること。それらは、周りにいる私たち大人の誰もができる、「命を守る行動」であるはずです。

 

子どもの命は、親のものではないのです。子どもを、社会で育てる。そう発想を切り替え、すべての大人が「自分ごと」として考え、行動すべき時に来ているのではないでしょうか。  

 

心愛さんの事件については、私が今月MCを担当しているBS日テレの「深層NEWS」(夜10時から生放送)で2月11日(月曜・祝日)夜の放送でも取り上げる予定です。ぜひ心を寄せて頂けましたら嬉しく思います。

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

元 日本テレビ報道キャスター

岸田雪子

フリーキャスター・ジャーナリスト。早稲田大学法学部を卒業、東京大学大学院情報学環教育部修了後、1993年日本テレビ入社。報道局社会部記者、政治部記者を務めた後、ディレクターとして「真相報道バンキシャ!」「N...

岸田雪子のプロフィール&記事一覧
ページトップ