【今週の大人センテンス】H.I.S.の曖昧な謝罪に見る(悪い意味での)大人力

話題

出典:東大美女図鑑オフィシャルウェブサイト

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第7回 無責任な批判と上っ面な謝罪の悪循環

 

「皆様に、ご不快な思いを感じさせる企画内容でありましたことを、深くお詫び申し上げます。」by株式会社エイチ・アイ・エス

 

【センテンスの生い立ち】

大手旅行会社のエイチ・アイ・エスは、5月11日、夏の海外旅行シーズンに向けた企画として、抽選で5組の旅行客を選び、写真誌「東大美女図鑑」のモデルを務める東大の現役女子大生が機内で隣りに座って、得意分野について教えてくれるというキャンペーンの実施を発表。ところが、発表した途端に「セクハラだ」「まるでキャバクラ」といった批判がネット上で盛り上がり、その日のうちに中止を決定して、サイト上に「お詫び」を掲載した。

 

【3つの大人ポイント】

・謝罪しつつも、どこがどういけなかったのかを曖昧にしている

・批判があるからと、スタートした当日に中止するヘタレっぷり

・今の世の中がいかに窮屈かを間接的にあぶりだしてくれている

 

「大人力」というのは、自分や周囲や世界を幸せにする方向で活用されるべきだと、僭越ながら提唱者としては願っております。「大人」という言葉も、なるべくプラスの意味で使いたいもの。しかし、残念ながら世の中では、「大人力」が悪い方向で発揮されるケースも少なくありません。物事をごまかしたり責任を逃れたり白いものを黒いと言い張ったり……。今回は、そんな悪い意味での大人力を発揮した「大人センテンス」をご紹介します。

 

抽選に当たると、海外に向かう飛行機で女子大生が隣の席に座って、得意分野についてあれこれ教えてくれる――。ああ、まさに夢のような企画です。お相手してくれるのは、東大女性のイメージアップを目的とした写真誌「東大美女図鑑」に参加する5人の女子大生。今は見られなくなっているキャンペーンページによると、工学部の女子学生は「行き先の街の成り立ちを教えて」くれたり、教育学部の女子学生は「夏休みの宿題を教えて」くれたり、文学部の女子学生は「教養のある雑学を語って」くれたりするはずでした。

 

そりゃまあ、批判をしようと思えばツッコミどころ満載の企画です。「東京大学」「女子学生」「美女」という記号にまつわるイメージや妄想をベースにしていると言われたら、もちろんそのとおり。「東大美女図鑑」という看板でタレント的に活動している当人たちとしては、勝手にイメージや妄想をふくらませてもらうのは、むしろ望むところでしょう。

 

当人たちも企画の内容や求められているものは承知の上で、自分にとって何らかのメリットがある「お仕事」だと判断して参加を決めたわけですから、「セクハラ」という批判は的外れです。「まるでキャバクラ」という批判も、日々男性を癒やしてくださっているキャバクラ嬢のみなさんに失礼ではないでしょうか。

 

まあ、お世辞にも上品で高尚な企画とは言えません。下品で低俗な企画だと感じる人もいるでしょうけど、エイチ・アイ・エスが「そういう会社」と見られるリスクを覚悟して実施を決めたわけなので、気に入らなければ利用しなければいいだけです。飛行機の中で「接客」をさせるのは法律的に問題があるのでは、という指摘もありますが、そのあたりは当然クリア(言い逃れ?)できる見通しがあって始めたはず。どちらに関しても、外野がとやかく言うことではありません。

 

こうしたジェンダーがらみの問題は、常に何かにケチをつけたくて仕方ない人や、自分は頭がいいんだと言いたい人にとっては、格好のターゲット。「女子学生が隣りに座ってくれるなんて! ウホホホ」と素直に鼻の下をのばすのはちょっと勇気がいりますが、「それは問題があるのではないか!」「女性の性の商品化ではないか!」と顔をしかめるのは簡単です。べつにあなたが見知らぬ客の相手をするわけでもなければ、当の女子学生に助けを求められたわけでもないんだから、いちいちケチつけなくてもいいじゃないですか。

 

ケチをつけている当人たちには、ご立派な理屈や主張があることはよく承知しています。その矛盾や視野の狭さを指摘したいのは山々ですけど、そんなことをしてもお互いに無駄に不愉快になるだけなので、これ以上は申し上げません。私としては、抽選に応募する気はありませんけど(もし当たっても緊張して楽しめなさそうだし)、こういう企画で「ハハハ、バカなこと考えるなあ」と楽しい気持ちにさせてもらったことについては、エイチ・アイ・エスに感謝したいと思っています。

 

ただし、批判されたからといって、スタートしたその日に中止にしてしまうヘタレっぷりには、激しくガッカリしました。「キャンペーン中止について」というタイトルでサイトに掲載されている以下の謝罪の文言も、悪い意味での大人力に満ちています。

 

5月11日より開始いたしました弊社企画に関しまして、お客様からたくさんのご意見を頂戴いたしました。

 

皆様に、ご不快な思いを感じさせる企画内容でありましたことを、深くお詫び申し上げます。皆様のご意見を真摯に受け止め、「東大美女図鑑」の学生たちが『あなたの隣に座って現地まで楽しくフライトしてくれる企画』を取り止めることに致しました。この度は、誠に申し訳ございませんでした。

 

株式会社エイチ・アイ・エス

 

これによると、取り止めたのは「皆様に、ご不快な思いを感じさせる企画内容」だったから。企画した段階からそれなりに批判があるのは予想していたはずだし、それでも実施したほうがいいと判断した理由や根拠もあるはずです。そのへんは(たぶん)あえて隠して、要は「たくさん文句言うヤツがいるから、やめることにした」としか言ってないわけで、どこか人ごとっぽい雰囲気を漂わせながら責任の所在を曖昧にしています。

 

いかにも木で鼻を括ったような謝罪ですが、かろうじて評価できる点があるとすれば、今の世の中がいかに窮屈かを間接的にあぶりだしてくれているところ。こうやって形だけ謝っておけば文句付けてるほうもすぐに忘れてくれる、というナメた姿勢も伝わってきます。それはきっと、エイチ・アイ・エスに限ったことではなく、企業というものが何にでも文句を付ける「ネットの声」というものをその程度にしか見ていない表われと言えるでしょう。

 

エイチ・アイ・エスでも他社でもいいんですけど、今回の件に懲りず今後も、東大のイケメンが隣に座ってくれるとか銀座のベテランママが隣に座ってくれるとか、あるいは大相撲の力士が両側に座ってくれるなど、多様なニーズに応える企画を打ち出してほしいところ。飛行機に乗っているあいだの話なので、地に足がついてなくてもぜんぜんOKです。

 

【今週の大人の教訓】

批判に簡単に屈するのは、批判を受けることよりもみっともない

オーサーの個人サイト

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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