“萌え系”イラストが流行の兆し、企業と自治体それぞれの事情

ビジネス

「じゅれみっくす」公式サイトより

最近“萌え系”イラストを採用する企業や自治体が増えている。注目度が高まる一方、炎上するケースも見受けられます。なぜ“萌え系”イラストは流行の兆しを見せているのだろうか。企業や自治体が“萌え系”イラストを採用するメリット、デメリットを整理しながらマーケティング視点で説明していこう。

 

最初にいくつか“萌え系”イラストの事例を紹介したい。岡山市瀬戸農産物加工企業組合のゼリーのキャラクター「じゅれみっくす」、泉精機製作所のキャラクター「松本いずみ」、名古屋競輪の協力を得て生まれたキャラクター「ぴすとっ」、愛知県知多半島5市5町のキャラクター「知多娘」など自治体、企業とも採用を増やしている。街を歩いていても、萌え系イラストの広告などを見かけることが最近増えたと感じる人も多いのではないだろうか。

 

 

■ “インパクト重視CM”を乱発する企業

 

“萌え系”イラストが流行る最大の理由は、企業も自治体も、認知度を向上させるための、インパクトあるPR手法が必要になったことである。情報も、商品も、供給過多の時代。世の中に情報が増えても、人々が摂取できる情報量は変わらない。情報が増えれば増えるほど、消費者にとっては嬉しくない状況になる。なぜなら、あまりにも情報が多すぎて、ノイズ状態になっているからだ。そのため消費者は情報へのアンテナを立てず、情報スルーすることが増えている。

 

ただ企業は、どんな状況であれ、常に右肩上がりの成長を求められる。市場や消費者の状況に関わらず、積極的に売らなければならないのが企業の宿命である。そのため、CMの表現でインパクトを強くしたり、オンエア本数を増やすなどして、無視され続けても、消費者に情報を届けようとしてきた。企業や商品を覚えてもらおうと、大声で名前を連呼したり、高額でも知名度の高いタレントを起用するなど、とにかく覚えてもらうことが目的の“インパクト重視CM”が増えていった。しかし、多くの企業が同様の手法を採用したため、消費者からすると、CM自体が煙たいものとなり、ますます消費者から見離される結果となった(余談だが、今のテレビ業界もこの状況に陥っている)。

 

 

■ゆるキャラブームの終焉、PR動画で試行錯誤の自治体

 

自治体は企業ほどの広告宣伝予算はない。そのため全国規模でCMをオンエアすることは現実的ではなかった。自治体の主なPR活動はイベントである。そこで地元の観光スポットや特産品などを積極的にアピールすることが活動の中心である。時には職員だけでイベントを実施することもある。かつて、まさに「お役所仕事」的に最低限の情報を発信するだけで良かった時代とは異なり、人々に注目してもらわなければならない状況が加速しているのだ。なぜなら、自治体も観光客数や移住者を増加させたり、特産品の売り上げを上げることが重要になってきているからだ。

 

こうした流れの中、出てきたのが“ゆるキャラ”である。ひこにゃん、くまもん、せんとくんなど、多くのゆるキャラが誕生し、自治体の活動に大きく貢献した。テレビを中心とするメディアも、ゆるキャラが出ることで視聴率が取れるため、ゆるキャラを起用したバラエティ番組が多く制作されるようになった。しかし、そのブームも2015年あたりにはピークを過ぎてきた。2016年に入ると、ゆるキャラがメディアに登場する機会がめっきり少なくなった。あれほどテレビに出ていたふなっしーですら、テレビで目にすることは稀となった。

 

そして次に出てきたのが“自治体PR動画”である。もっとも有名なものはだろう。またも有名だ。いかに面白い動画にするかが話題になるかならないかの分かれ目になってきた。面白い内容であれば、テレビでも取り上げられ、話題はさらに加速する。またソーシャルメディアによって、勝手に広まっていく。話は少し逸れるが、ピコ太郎が「」であっとうい間に世界的な人気者になったが、「PPAP」の制作費は10万円程度である。大きな費用がなくても、コンテンツが面白ければ全世界にまで広がる時代になった。これは企業と異なりCMを打つ費用がない自治体にとっては願ったり叶ったりの条件だ。ただ、いまだ企業や自治体の動画制作は人気ではあるものの、ピークを超えた感もある。次のブームとして流行の兆しを見せはじめているのが“萌え系イラスト”なのだ。

 

 

■なぜ“萌え系”イラストがブームになりつつあるのか?

 

“萌え系”イラストを企業も、自治体も採用し始めた理由はいくつかある。ひとつは“萌え系”イラストが若者に受け入れらていることである。中高年層からすれば、理解しづらいものかもしれないが、20代以下の若者はすんなりと受け入れている。なぜなら、彼らは “萌え系”イラストのアニメを見て、関連したアニソンを聞き、その声優のライブに行く世代である。そもそもはオタク中心に支持されてはいたが、今や彼らの中では一般的になっている。そして、“萌え系”イラストの力は強い。秋葉原や中野に行ったり、コミケやニコニコ超会議などに行けば一目瞭然だが、“萌え系”イラスト”を軸にしたビジネスの盛り上がりは凄まじい。関連するグッズは飛ぶように売れていく。商品ジャンルによっては、一つは普段使い、一つは永久保存用など同じグッズを複数購入する消費者もいる。つまり、それだけ消費者を動かす力が強いのだ。

 

支持層も確実に広がっている。アメリカのトヨタがボーカロイドの初音ミクを広告キャラクターに起用したように、海外でも受け入れられ始めている。中高年層もこうした流れを受けると「違和感を持つほどのものではなく、一般的なもの」という認識に少しずつ変わってくる。これが、まさに「現状」である。“萌え系イラスト”に対して、世の中全般の抵抗感が少しずつ薄れてきたのだ。

 

 

■“萌え系イラスト”を採用するメリットとデメリット

 

これから、企業や自治体は“萌え系イラスト”を使ったプロモーションを模索していくだろう。しかし、採用するかどうかは判断が難しい。なぜなら“萌え系”はインパクトが強く、一定の結果が出るというメリットが出る反面、炎上しやすいという面も持つからだ。実際、東京メトロは“萌え系イラスト”で大きな間違いを起こし炎上する事態となった。大企業やラグジュアリーブランドになればなるほど、企業としては炎上を避けたい。長年かけて培ったブランドイメージは、炎上によって一瞬で地に堕ちかねないから、慎重にならざるをえないのだ。炎上しても失うものが少ない企業と大企業では、炎上に対する許容性が大きく異なるのが現状である。まとめると、炎上する可能性があることがわかった上で、プロモーションを進める覚悟がある企業ならば、大きなメリットを得られるだろう。

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マーケティングコンサルタント

新井 庸志

マーケティングコンサルタント。「ワールドビジネスサテライト」「スーパーJチャンネル」などのニュース、情報番組や「日本経済新聞」「日経ビジネス」「財界」「宣伝会議」など、新聞、雑誌での執筆多数。経営から...

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