【今週の大人センテンス】「逃げ恥」の主人公への非難を「レッテル貼りだ」と反論

話題

出典:より

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第36回 自分を縛っている思い込みに気づきたい

 

「すごくわかりやすいなと思うのは、男女を反転するだけでぜんぜん怒る気持ちにならないんです」by星野源

 

 

【センテンスの生い立ち】

TBSテレビで毎週火曜日夜10時から放送中の連続ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(通称・逃げ恥)が、話題と注目を集めている。視聴率も回を重ねるごとに上昇。第7話のラストで、主人公の津崎平匡(星野源)は、ヒロインの森山みくり(新垣結衣)の思い切った誘いを断わってしまう。星野は、28日深夜に放送された「星野源のオールナイトニッポン」(ニッポン放送)の中で、平匡の行動を非難する声に対してこう言いながら反論した。

 

【3つの大人ポイント】

・見えないレッテル貼りや呪縛の存在を浮き彫りにしている

・男女をめぐる問題のモヤモヤがスッキリする素晴らしい視点

・演じている役について語ることで楽しみを広げてくれている

 

 

ドラマ自体も視聴者も、どんどん盛り上がっています。TBSの連続ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」。星野源が演じる35歳の童貞ITエンジニアと、新垣結衣が演じるめちゃくちゃカワイイ高学歴女子が、ひょんなきっかけで契約結婚。そしてもちろん同居。最初は「お仕事」だったものの、次第に惹かれ合っていって、いろいろややこしい感情を抱いたり衝突したり反省したり……。もどかしくも胸キュンな展開が続いています。

 

エンディングに出演者が踊る「恋ダンス」も、テレビの外で大盛り上がり。一般人から有名人まで、たくさんの人がこれを踊った動画をネット上に投稿しています。先日は元フィギュアスケート選手で現在は解説者の織田信成氏が、羽生結弦選手、田中刑事選手、宮原知子選手らとともに“恋ダンス”を踊った動画をにアップし、20万以上のリツイートや40万以上の「いいね!」を集めるなど、大反響を巻き起こしました。とくに、羽生選手のダンスのキレッキレぶりは一見の価値があります。

 

すでに第8話が放送されていますが、ここで取り上げたいのは、11月22日に放送された第7話のラストシーンと、その反響というか主人公の行動についての非難の声に対して、星野源が11月28日深夜のラジオ番組で語った発言についてです。

 

問題のシーンでは、みくりが平匡に抱きつきながら「いいですよ、そういうことしても。平匡さんとなら」と大胆に告げます。しかし、それに対して平匡は、自分が童貞であることを彼女に知られたくないことを恐れて「無理です。そういうことをしたいんではありません。ごめんなさい、無理です」と拒絶。もちろん、ふたりのあいだには気まずい空気が流れ、結果的にみくりは家を出てしまいました。

 

そんな平匡の行動に対して、リスナーからは大量のメールが届きます。みくりが早計だったと指摘する声もあるものの、「平匡なにしてんだ!」というお叱りが多かったとか。星野は、お叱りが多かったことに対して、次のように反論を述べます。(ラジオ番組での星野の発言は、リテラに掲載のを参考にさせてもらいました)。

 

「平匡が拒否するというエンディングになったときに、やっぱりみんな怒っている怒り方が、メールとかを見ていると、『男なのに何やってんだ! 女性から申し込まれたそういう誘いを男がなぜ断るか?』って怒っているんだけど、それって、平匡なり、みくりなりがずっと苦しんできた“男に生まれたから”っていうレッテル、“女に生まれたから”っていうレッテル。そういうものとまったく一緒なんですよね」

 

あえて古臭い言い方をすれば、平匡は「据え膳」を食わずに「女に恥をかかせた」わけです。「なぜ拒否するんだ!」と言って彼を責めるのは、昔ながらの「男はこうあるべき」という呪縛を前提にした非難に他なりません。このドラマがもっとも訴えたいのは、おそらく「『男だからこうあるべき』『女だからこうあるべき』といった呪縛から逃げよう。それは役に立ちますよ」ということ。平匡を非難している人は、けっしてそういうつもりはないかもしれませんが、定型化された「男らしさ」を意識しないまま押し付けてしまうところに、レッテル貼りの根深さや厄介さがあると言えるでしょう。星野は、さらにこう続けます。

 

「すごくわかりやすいなと思うのは、男女を反転するだけでぜんぜん怒る気持ちにならないんです。いままで彼氏がいたことがなくて、そういうこともしたことがない女性に対して『いいですよ、あなたとならしても』って男が言ったときに感じる感情ってぜんぜん違うじゃないですか。怒りじゃない。それで拒否しても、まったく怒る気にならない。『それはしょうがないよね』ってなる。でも、男になっただけで『お前、しっかりしろよ!』ってみんなから言われるっていうことは、それはいかにみんなが男と女というレッテルに縛られているかっていうことの証明なんですよね。だから、出演者が苦しんでいる理由は、見ている人たちの、怒った人たちの心のなかにある」

 

なんて男前な発言なんでしょう。さすが今、もっともモテている男。「男女を反転」して考えてみるのは、じつに画期的で効果的なアイディアです。性的な関係を持ちかけたり持ちかけられたりする場面だけでなく、プロポーズをしたりされたり、結婚生活や結婚相手の理想を語ったり……。「僕が君を幸せにするよ」も「頼りがいがある人じゃなきゃ」も、男女を反転して考えてみると、違和感を通り越してコントのセリフみたいになってしまいます。もちろん、育ってきた文化の影響や現状を無視することはできませんが、違和感があるということは、どこかに不自然な要素があると思ったほうがいいでしょう。

 

仕事や結婚の問題で悩んでいる人は、ためしに自分が別の性別になったと仮定して想像をふくらませてみると、「なんでそんなにプレッシャーを感じていたんだろう」と思えたりして、気持ちが楽になるかもしれません。親が押し付けてくる「男だから」「女だから」を前提とした「理想の子ども像」や「こうあるべき姿」も、性別を逆に考えると、多くの場合は「ま、適当に聞き流せばいいや」という気になれそうです。

 

あるいは、以前にこの連載でも取り上げた「」のように、セクハラや女性差別がらみでムカッと来る問題があったとして、もし男女が逆だったと考えたときに「そんなに目くじら立てなくていいかも」と思えたら、自分を縛っているものの正体を突き詰めて考えてみましょう。女性に対する押しつけを怒っている人が、人一倍押しつけに縛られているケースは少なくなさそうです。いや、余計なお世話ですね、すいません。

 

ともあれ、ドラマのふたりはこれからどうなっていくのでしょうか。登場人物について演じている本人が語ってくれるというのも、さらに楽しみが広がってありがたい限りです。ふたりの気持ちのすれ違いっぷりにハラハラやきもきしながら、呪縛から逃げることの大切さや逃げる勇気を学ばせてもらいましょう。タイトルにケチをつけるようですが、自分を苦しめるだけの無意味な呪縛から逃げることは、けっして恥ではありません。

 

 

【今週の大人の教訓】

悩みや怒りは、じつは自分の中に原因の一端があることは多い

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

石原壮一郎のプロフィール&記事一覧
ページトップ